同じ帰り道を歩く小集団を次々追い抜いて、河川敷の入り口にたどり着いた。
 階段を上り、川岸に目を凝らす。
 ススキに隠れて見えにくかったけど、いつもの場所あたりに、紺色のセーラー服に身を包んだ女の子の後ろ姿が見えた。
 見慣れたそのロングヘアが視界に入るなり、全身の疲労がすーっと消えていった。

 階段を一段飛ばしで降りて、川岸へ向かう。
 視界には遥奏しか入っていなかった。
「すみません!」
 途中のアスファルトで通行人のおじさんとぶつかりそうになり、あわてて避ける。

 シャトルランの自己ベストを更新できそうな勢いで両足を動かし、数メートル先に遥奏が見える位置まで来た。

「遥奏!」
 黒髪は、微動だにしなかった。
 聞こえなかったのかと思って、近づきながらもう一度呼ぶ。
「おーい、遥奏!」
 けれど、緑色のリボンは、川の方を向いたまま。

 僕は、遥奏の左隣まで移動して、もう一度呼びかけた。
「ねえ、遥奏!」
「何よ!」
 遥奏がやっと僕の方に体を向けながら、半歩後ろに下がった。

 弓のように曲がった唇。
 水平線のようにまっすぐ伸びた二重まぶた。
 大きな瞳はその中に僕を描くことなく、足元のコンクリートを彷徨っている。
 
 遥奏のこんな表情を見たのは初めてだったけれども、どういう気持ちでいるのかは想像できた。

「遥奏、ごめん、昨日来れなかったのは……」
「私、バカみたい。ずーっとひとりで待っててさ」
 薄桃色の唇から、声が吐き捨てられた。

「女の子と約束があるならそう言ってくれればいいのに」