遥奏に連れていかれた先は、四駅先の水族館だった。
「待ってごめん、僕、今日お金持ってないかも」
入り口付近で自分の所持金事情を思い出した僕は、遥奏にそう告げた。
「大丈夫! 私出すからさ、付き合ってよ!」
人からお金を借りるのは気が引けたけど、強引に引っ張られたようなもんだし、ま、いっか。
そうして僕らは受付を済ませ、館内を回り始めた。
薄暗く照らされた、幻想的な内装。
水槽の中で、色とりどりの海洋生物が各々のペースで泳いでいた。
「見て、かわいい!」
小さな子供みたいにガラスに顔を近づけて、魚の動きを目で追う遥奏。
魚それ自体に強く興味を惹かれなかった僕は、遥奏から一歩引いて、館内の様子を見回していた。
視界の端に、男の子が映った。
紺と白のストライプの長袖Tシャツに、ベージュの長ズボン。マジックテープで止めるタイプのスポーツシューズ。
背丈からして、四歳か五歳くらい。
近くに同伴者の姿はなく、あたりをキョロキョロと不安げに見渡していた。
見るからに、迷子だった。
「ねえ、秀翔! 見て見て!」
遥奏が水槽を見ながら僕の名前を呼ぶけど、それどころではない。
どうしよう。やっぱ、声かけたほうがいいよな。
でも、なんて声かければいいんだろう。
「秀翔ってば!」
呼びかけに応じない僕を不審に思ったか、遥奏がこちらを見た。そして、僕の目線の先を追う。
次の瞬間、遥奏は男の子に駆け寄っていた。
タンタンタン、とスニーカーが床の上を跳ねて小気味好い音を立てる。
さすが遥奏。
遥奏はこういう人だ。
「こうしよう」と思ったことを、すぐに行動に移せる人。
僕みたいに、ためらったりしない。
「どうしたの? お家の人は?」
男の子と目線を合わせて、明るく声をかける遥奏。
僕も、行っても特に役に立てることはないと思いつつ、一応男の子と遥奏の方に向かう。
「お名前なんていうの?」
お気に入りの魚を見た直後のハイテンションのまま、男の子に問いかける遥奏。
勢いに気圧されたのか、男の子は遥奏を見て押し黙っている。
「お家の人とどこではぐれちゃったか覚えてる?」
思ったことをすぐ口にできるところ。
それは間違いなく、遥奏の強みだ。
「お姉ちゃんに任せて! 黙ってちゃわかんないよ! 一緒にお家の人探そ!」
だけど、それが、裏目に出ることもある。
「うわあああああああん」
男の子が泣き出した。
遥奏には、決して威圧する意図はなかったと思う。
けど、矢継ぎ早に質問された男の子は、びっくりしちゃったんだろう。
遥奏なら「ごめんごめん、落ち着いて」なんて言ってすぐに立て直せるはずだ。
そう思っていた。
ところが、僕が二人の前にたどり着くと、
「遥奏?」
そこには、石化したように固まっている遥奏がいた。
「待ってごめん、僕、今日お金持ってないかも」
入り口付近で自分の所持金事情を思い出した僕は、遥奏にそう告げた。
「大丈夫! 私出すからさ、付き合ってよ!」
人からお金を借りるのは気が引けたけど、強引に引っ張られたようなもんだし、ま、いっか。
そうして僕らは受付を済ませ、館内を回り始めた。
薄暗く照らされた、幻想的な内装。
水槽の中で、色とりどりの海洋生物が各々のペースで泳いでいた。
「見て、かわいい!」
小さな子供みたいにガラスに顔を近づけて、魚の動きを目で追う遥奏。
魚それ自体に強く興味を惹かれなかった僕は、遥奏から一歩引いて、館内の様子を見回していた。
視界の端に、男の子が映った。
紺と白のストライプの長袖Tシャツに、ベージュの長ズボン。マジックテープで止めるタイプのスポーツシューズ。
背丈からして、四歳か五歳くらい。
近くに同伴者の姿はなく、あたりをキョロキョロと不安げに見渡していた。
見るからに、迷子だった。
「ねえ、秀翔! 見て見て!」
遥奏が水槽を見ながら僕の名前を呼ぶけど、それどころではない。
どうしよう。やっぱ、声かけたほうがいいよな。
でも、なんて声かければいいんだろう。
「秀翔ってば!」
呼びかけに応じない僕を不審に思ったか、遥奏がこちらを見た。そして、僕の目線の先を追う。
次の瞬間、遥奏は男の子に駆け寄っていた。
タンタンタン、とスニーカーが床の上を跳ねて小気味好い音を立てる。
さすが遥奏。
遥奏はこういう人だ。
「こうしよう」と思ったことを、すぐに行動に移せる人。
僕みたいに、ためらったりしない。
「どうしたの? お家の人は?」
男の子と目線を合わせて、明るく声をかける遥奏。
僕も、行っても特に役に立てることはないと思いつつ、一応男の子と遥奏の方に向かう。
「お名前なんていうの?」
お気に入りの魚を見た直後のハイテンションのまま、男の子に問いかける遥奏。
勢いに気圧されたのか、男の子は遥奏を見て押し黙っている。
「お家の人とどこではぐれちゃったか覚えてる?」
思ったことをすぐ口にできるところ。
それは間違いなく、遥奏の強みだ。
「お姉ちゃんに任せて! 黙ってちゃわかんないよ! 一緒にお家の人探そ!」
だけど、それが、裏目に出ることもある。
「うわあああああああん」
男の子が泣き出した。
遥奏には、決して威圧する意図はなかったと思う。
けど、矢継ぎ早に質問された男の子は、びっくりしちゃったんだろう。
遥奏なら「ごめんごめん、落ち着いて」なんて言ってすぐに立て直せるはずだ。
そう思っていた。
ところが、僕が二人の前にたどり着くと、
「遥奏?」
そこには、石化したように固まっている遥奏がいた。