「お願い! 井浦ちゃんだけが頼りなの!」

 夏休み直前のある日、朝早く隣のクラスからやってきた佐野さんが私の席にくるなり、勢いよく頭を下げてきた。
 傘泥棒の件がきっかけで、彼女とその友人たちと一緒にいることが増えたものの、周りでは「井浦が脅している」――どちらかといえば脅してきたのは佐野さんの方だが――と噂話が絶えない。しかし、高校三年生という最後の年に不良と関わっていることが広まってしまって以来、深く考えないようにしていた。考えている余裕も、そのたびに突っ込む気力も失せたのだ。

「井浦ちゃんが人と関わるの苦手だってわかってるけど、本当に人が足りないの!」
「わ、分かったから、とりあえず顔を上げて……?」

 そんな私を前に佐野さんに頭を下げていることに、教室にいるクラスメイトの大半が、物珍しそうにこちらを見ていた。
 何でも、町内会が主催の夏祭りが決まってお盆の期間中に行われており、屋台はもちろん、ステージ上での小中学生のパフォーマンスやカラオケ大会、景品が当たる抽選会など、内容が盛りだくさんで毎年好評の行事がある。特に北峰高校のグラウンドで行われていることもあって、ここ数年で企画段階からわが高校の生徒会が関わっていた。実際、秋に行われる文化祭で出店する屋台の出し物の練習として、夏祭りに出すクラスや部活動も少なくはない。売り上げはその年の文化祭費用として使われることになるので、生徒にとっては一石二鳥だ。
 しかし、今年はあろうことか町内会の人員が減ってしまい、屋台の数も人員も足りなくなってしまったため、急遽生徒会がボランティアとして参加生徒を募集することになった。佐野さんもその一人で、なかなか集まらなくて困っているらしい。