ただ、この現状に納得できないのが一人――隣にいる袴田くんが、ここ数日、何か言いたげな目でこちらを見てくる。

「……なに?」
『井浦はもっと俺に感謝してくれたっていいんじゃねぇの?』
「それは安藤くんを手懐けた噂が広まったこと? それとも船瀬くんを助けてくれたこと?」
『どっちもだけどさ、もっとあるだろ? 佐野と仲良くなれたこととか! そもそも、俺が佐野の傘を盗んだ奴を見てなかったら、今頃こんなことになってなかっただろうし!』

 ふざけていたくせに、と皮肉を言うと、袴田くんは口をとがらせてわかりやすく拗ねた。
 確かに袴田くんがいなければ、きっと卒業しても佐野さんと仲良くなることはなかっただろう。
 結局、私はまた彼に助けられたのだ。

『お前なら言えるはずだ、「袴田くんありがとう」って言ってみろよ』
「……また今度ね」

 助けられたことには感謝しないといけない。が、しかし。こんなに腑に落ちないのはなぜだろう。
 隣で騒がしい彼の声の後ろで、屋上から見えるグラウンドには運動部の掛け声が反響して聞こえてくる。最近の忙しさから解放されたせいか、乾ききっていない土のへこんでできた水溜まりが、とても眩しく見えた。

 第二章 雨の日に降る星   〈了〉