ただ、あの一件のおかげで良いこともあった。
 あの後、野中くんが連れてきた保健室の先生と一緒に応急処置をして船瀬くんが動けるまで回復したのを見計らって中庭に戻ると、私が放ったらかしにしたペットボトルを佐野さんの友人たちが回収してゴミ袋にまとめてくれていた。
 それを見て一番驚いていたのは、私ではなく佐野さんだった。

「皆……なんで?」
「単なる気まぐれ。……にしても井浦さんのクラス、溜めすぎじゃない? イカダでも作る気?」
「ってか、この量を一人で持って行こうとしてたの? さすがに無理があるって」
「……どうして」

 この状況がいまいちわかっていない私と佐野さんに、彼女たちは言いづらそうに視線を逸らした。

「あの時は正直、ヤバい奴って思ってた。由香は何でも信じちゃうし真っ直ぐだから、どうしても話を食い違っちゃうこともあって。今回もすぐ仲直りできるって軽く見てたんだけど……二人がいるところ見てて普通に話してるから、『あれ? 案外良い子なんじゃない?』って皆と話したの」
「さっきの安藤を止めたの見て、納得した。由香が仲良くなりたがるわけだ!」
「ごめんね、二人とも。噂だけで決めつけたりして」 
「みんなぁ……」

 彼女たちの言葉に佐野さんが目を潤ませ、そのまま彼女たちに飛びついた。一週間という、彼女たちにとって長い絶交期間は、ようやく晴れ間を見せることになった。

 私は私で、ペットボトルを片付けてくれたことに礼を言うと、「だったら今度のお昼一緒に食べよう」と誘ってくれた。その日から、昼休みは佐野さんと彼女たちの輪に入れてもらうことが多くなり、誰かと話しながら食事をするのが純粋に楽しいと思った。これも佐野さんのおかげだ。