そうして、長かった梅雨がようやく明けた。
 降り続けた雨が嘘のように、日差しの強い太陽が空に浮かんでこちらを見下ろしている。屋上のコンクリートからじりじりと陽炎が見えるのも、この時期ならではの現象だ。
 北峰の制服も夏服に完全に移行し、多くの生徒が半袖のワイシャツに夏用スラックス、スカート姿のなか、袴田くんの冬服姿はよく目立った。幽霊(仮)に季節は関係ないらしい。

「袴田くん、暑くないの?」
『全っ然! そんなに暑い?』
「本格的な夏じゃないけど……今日は日差しが強いかな」
『ふーん。そんなもんか』

 そう言って袖を捲りながら、お気に入りの給水タンクの上に登っていく。気温が感じにくいとは聞いていたけど、気分で合せようとしたのかな。

『そういや井浦、定期テストどーすんの? あと一週間切ったぞ』
「う……な、なんとかなるって!」
『ま、そん時は誰かがテスト中に乱入してくるのを願っとけ』
「乱入って……さすがにしないでしょ。」
『いやいや、またフェンスに穴開けて入ってくるって! なんていったって監禁されても一人で脱出した岸谷と、大男を手懐けた井浦がいるんだからな!』

 袴田くんは嫌味を込めた、清々しいくらい爽やかな笑みをこちらに向ける。
 そう、失踪事件の時に暴れていた大男――改め安藤くんをかなり強引に静めたことによって、私の印象がまた更に悪化した。以来、安藤くんと廊下で会うと必ず会釈される。対応が困るからやめてほしい。