岸谷くん失踪事件は、ものの数十分で急展開を迎えた。

 まず職員室で連絡を待っていた先生と警察に、事情を説明したうえで船瀬くんから南雲の生徒とのやり取りしたメッセージの履歴と、自分が本当に危ないと思ったときに、切り札として隠し持っていた脅されている最中の様子を録り溜めていたボイスレコーダーをすべて渡した。
 警察はすぐさま南雲第一高校に向かい、そこで関わっていたとされる生徒から、岸谷くんのスマホが見つかった駅近くにあるトランクルームに監禁されていることが分かった。
 急いで警察がトランクルームに駆け付けたと同じ頃、保管されている一番奥のトランクルームから何かが落ちる音が管理室にまで聞こえた。不審に思って行ってみれば、片方の扉が半壊したトランクから、ボロボロの恰好をした岸谷くんが自ら歩いて出てきたという。中で拘束されていたのか、千切れたロープが散らばっている他、見知らぬ男性が複数名が倒れていた。警察の調べで、彼らは近くの大学生でアルバイトとして金で雇われたと話しているという。雇い主は未だわかっていない。

 自分に捜索願いが出されていたことに驚いた岸谷くんは「そんな大袈裟な……皆、良い奴らなんですよ」と嬉しそうに自慢話が始まったそうで、事情聴取をした警察官は呆気を取られていた。

 船瀬くんはというと、あの後すぐに病院へ連れていかれ、全身打撲と全治三ヵ月の右腕の骨折、最低三ヵ月は絶対安静と診断された。骨が折れた状態で今まで学校に行き、アルバイトをこなしていた事実を病院側に話すと、お灸をすえてもらったらしく、連れ添った佐野さんが満面の笑みを浮かべているその隣で、げっそりした顔の船瀬くんがいた。もちろん、運動とアルバイトはしばらく禁止だ。

 そして、船瀬くんが受けてきた暴行、恐喝を含めたこれまでの行動について、南雲第一の校長と理事長が直々に謝罪に来たのは、騒動が起きて二週間も過ぎた頃だった。遅すぎる、という声も上がる中、似通った騒動は何年も前から起こっていることもあって今更なぜ、というスタンスでいた校長が、今回の岸谷くん失踪――ではなく、監禁事件まで発展したことで重い腰が上がったようだ。噂では、話を終えた両校の校長は頭を抱えているらしい。