それと同時に、腑に落ちもした。復讐を否定も肯定もできない私には、彼らの考えを理解してあげられない。自分を殺した人物を自らの手で死に追い込む袴田くんだからこそ、寄り添えたのかもしれない。
 特に袴田くんには、「次」がないのだから。 
 私は泣き続ける船瀬くんの、怪我をしていない左手にそっと触れる。

「私も噂が広まって孤立した人間だから、周りの目が怖いのは分かる。でも周りを見渡していないだけで、話を聞いてくれる人はちゃんと近くにいるんだよ」
「……僕なんかの話を、信じてくれる人なんて」
「いるよ、ほら」

 バタバタとコンクリートを蹴る音が近づいてくる。それからすぐにコンテナの裏から、佐野さんと一年生らしき男子生徒が駆け寄ってきた。
「井浦ちゃん、すっごい音したけど……って、淳太!? どうしたの!?」
「佐野、せんぱい……?」
「中庭の騒ぎが落ち着いて、二人がいないことに気づいたの。彼も淳太のことを捜してたから一緒にいたんだけど、こっちの方向にガッシャンって大きな音が聞こえてきたから慌ててきたの」
()(なか)まで……」
「船瀬が日に日に顔色悪くなっていくから気になって。…‥って、こんなことは後で耳にタコができるまで話してやる! 俺、保健室の先生を呼んできます!」

 やきもきした様子で野中と呼ばれた一年生は颯爽と職員室へ向かって走り出す。聞けば船瀬くんと同じクラスの生徒らしい。赤く滲んだカーディガンを見た彼が、一瞬で青ざめた顔をしたのを見て、船瀬くんが申し訳なさそうに目線を落とした。
 すると、袴田くんが船瀬くんの頭をわしゃわしゃと雑に撫でまわした。突然のことで船瀬くんは顔を上げて周りを見渡すけど、不思議な顔をして私に聞く。

「い、今頭撫でたの……井浦先輩ですか?」
「えっ……あ、え?」
『井浦、後はよろしくー』

 袴田くんはそう言ってスッと消えてしまう。船瀬くんに袴田くんの声は聴こえておらず、誰が頭を撫でたかもわかっていないようだった。全部投げっぱなしで行ってしまうなんて、少し見直していた気でいたけど訂正しよう。やっぱり袴田くんは袴田くんだ。