「あーあ、こんなデカい抜け穴があったのか。この学校、点検を怠りすぎじゃね? 匿名希望で学校にクレームでも入れてやろうかな」
「電話することも文字を書くこともできないでしょ……って、取り憑かなくても動けるの?」
「なんかできた」
「なんかの一言で片付けないでよ!」
自分が指定した条件を達した人間なら姿を見せることができる――彼は以前、そう言っていたが、今回に至っては信頼も手を下した相手でもない。さらに生前と同様の身体捌きは、もはや実体化と言っても過言ではない。
「そんなことより、アイツは放っておいていいのか?」
「……うっ、あ、あれ……?」
「……あっ! 船瀬くん!」
袴田くんに圧倒されていてすっかり頭から抜けていた。
船瀬くんの苦しそうな咳が聞こえて駆け寄ってゆっくりと上半身を起こす。少しずつ呼吸を整えてながら右腕を押さえていた。わずかにカーディガン越しに赤いシミができている。叩きつけられた衝撃で傷口が開いてしまったようだ。
困惑していると、船瀬くんが私の腕を力なく掴んだ。
「す、みません‥…井浦先ぱ……」
「いいから、今は安静にしてないと――」
「聞いていたんでしょう? 僕が万引きしたって話」
咳き込んで潤んだ目が揺れてこちらに向けられる。私が全部、と答えると一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐにはにかんだ笑みを浮かべる。
「そうですか。じゃあしょうがないですね」
「……ずっと、脅されてたの?」
「……僕は入学したての頃、コンビニで彼らが万引きしているところを見てしまったんです。こっそり店員さんに伝えて逃げたんですけど、どこで知ったのか、数日でバレてしまって。そこから呼び出されました。その時に南雲の不良をまとめているのが北峰の岸谷さんだと告げられて、万引きも彼の指示だったと説明されたんです。岸谷さんの名前は聞いたことがあったので、まさかとは思ったんですけど……でもいつの間にか、僕が万引きしたことにされていたんです。否定しても聞いてもらえるわけがない。彼らを介して岸谷さんから、学校に言わない代わりに北峰の生徒の動きを報告するよう、命令されました」
「それって、もう三ヵ月も経ってるよね? どうして誰にも言わなかったの?」
「言ったって……誰が信じてくれるんですか!」
声を荒げ、腕を掴んだ手に力がこもる。私に向けた船瀬くんの目は怒りが込められていた。
「どれだけ正しいことをしても、証明してくれる人や物がないと意味がないんです! 複数の人がデマを流せば、世間は面白がって広げていく。それが学校だろうが社会だろうが関係ない。僕には相手が悪すぎました。僕がもっと強ければ、こんなことにならなかった、そんなこと分かってるんですよ! でも僕がやらなくちゃ、今度は家族を脅すと言われて……だから、誘いに乗りました」
「電話することも文字を書くこともできないでしょ……って、取り憑かなくても動けるの?」
「なんかできた」
「なんかの一言で片付けないでよ!」
自分が指定した条件を達した人間なら姿を見せることができる――彼は以前、そう言っていたが、今回に至っては信頼も手を下した相手でもない。さらに生前と同様の身体捌きは、もはや実体化と言っても過言ではない。
「そんなことより、アイツは放っておいていいのか?」
「……うっ、あ、あれ……?」
「……あっ! 船瀬くん!」
袴田くんに圧倒されていてすっかり頭から抜けていた。
船瀬くんの苦しそうな咳が聞こえて駆け寄ってゆっくりと上半身を起こす。少しずつ呼吸を整えてながら右腕を押さえていた。わずかにカーディガン越しに赤いシミができている。叩きつけられた衝撃で傷口が開いてしまったようだ。
困惑していると、船瀬くんが私の腕を力なく掴んだ。
「す、みません‥…井浦先ぱ……」
「いいから、今は安静にしてないと――」
「聞いていたんでしょう? 僕が万引きしたって話」
咳き込んで潤んだ目が揺れてこちらに向けられる。私が全部、と答えると一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐにはにかんだ笑みを浮かべる。
「そうですか。じゃあしょうがないですね」
「……ずっと、脅されてたの?」
「……僕は入学したての頃、コンビニで彼らが万引きしているところを見てしまったんです。こっそり店員さんに伝えて逃げたんですけど、どこで知ったのか、数日でバレてしまって。そこから呼び出されました。その時に南雲の不良をまとめているのが北峰の岸谷さんだと告げられて、万引きも彼の指示だったと説明されたんです。岸谷さんの名前は聞いたことがあったので、まさかとは思ったんですけど……でもいつの間にか、僕が万引きしたことにされていたんです。否定しても聞いてもらえるわけがない。彼らを介して岸谷さんから、学校に言わない代わりに北峰の生徒の動きを報告するよう、命令されました」
「それって、もう三ヵ月も経ってるよね? どうして誰にも言わなかったの?」
「言ったって……誰が信じてくれるんですか!」
声を荒げ、腕を掴んだ手に力がこもる。私に向けた船瀬くんの目は怒りが込められていた。
「どれだけ正しいことをしても、証明してくれる人や物がないと意味がないんです! 複数の人がデマを流せば、世間は面白がって広げていく。それが学校だろうが社会だろうが関係ない。僕には相手が悪すぎました。僕がもっと強ければ、こんなことにならなかった、そんなこと分かってるんですよ! でも僕がやらなくちゃ、今度は家族を脅すと言われて……だから、誘いに乗りました」