最悪の状況が次々と頭に浮かんでくると、不安からか手が震えてきた。思わずぎゅっと握りしめるけど、治まる様子はない。
 岸谷くんとは最近話すようになったくらいでほとんど知らないけど、身近にいた人がこんな簡単に行方不明になれば、誰だって不安に駆られるものだ。
 見かねた袴田くんが小さく溜息をつくと、ベンチから降りて言う。

『職員室で聞いた話だと、一昨日の時点で岸谷の両親が不審に思って、すでに警察に捜索届を出してるってよ。周りの評価がどうであれ、息子が家出する理由がねぇって警察と先生たちを丸め込んでた』
「……どうして、それを?」
『ちなみに自宅から四つも離れた駅の裏で岸谷のスマホが見つかった。画面は割れていたが無事起動したらしい。今警察で調べている。これが現状だ。……これで少しは安心できただろ』

 今日一日は教室にいなかったから、てっきり屋上で昼寝でもしていると思っていたけど、袴田くんも個人的に動いていたらしい。先程まで詰まりそうになっていた呼吸が、ゆっくりと戻ってくる。

『そんな間抜けな面してる暇があんなら、さっさと手掛かり掴んで来い』
「相変わらず失礼だよね、でもどうやって? 安藤くんでさえ捜して見つからなかったのに」
『いるだろ、情報持っていそうな奴が』

 そう言って顎で指された方を向くと、ゴミ捨て場の方へ足早に向かう船瀬くんの姿が見えた。心配で駆け寄った友人たちに囲まれている佐野さんには気付かれていないようだ。
 散乱したペットボトルを蹴り飛ばさないように――後で戻ってきたら片付けよう――中庭を抜けてゴミ捨て場へ向かう。
 校舎の裏に置かれたいくつものゴミ袋が入ったコンテナのその裏に行くと、突然船瀬くんの怒号が聞こえてきた。