なんてこった。
 安藤くんの話に周りの生徒たちがざわつき、収拾がつかなくなっていた。
 言われてみればこの三日間、岸谷くんとは会っていないような気がする。クラスが違うとはいえ、まさかそんなことになっているなんて思うわけがない。

 羽交い絞めから解放された先生が安藤くんに駆け寄って、詳しい話を聞くために職員室に連れて行く。横暴な印象が目立つ大きな彼が不安げに背中を丸めて歩く後ろ姿に、この事態が深刻なものだと思い知らされる。
 三日間も家に帰っておらず、情報は南雲の生徒に呼び出されたことだけ。きっと安藤くんも心当たりのある場所は捜したはずだ。しかし、手掛かり一つさえ見つからなかったがために、南雲のスパイだと疑っていた船瀬くんに問いただそうとした、といったところだろう。

『――岸谷が無断で休むことはねぇとは思ってたが、なるほどねぇ』

 納得した様子の声が聞こえて見ると、先程の騒ぎで凹んでしまったベンチの上に、袴田くんがベンチの背に腰かけていた。行儀が悪いし、相変わらず唐突に姿を現したことに苛立ったけど、にやけた笑みはどこにもなく、いつになく真剣な表情をしていた。

「袴田、くん……」
『よぉ、井浦。さっきのゴミ袋ぶつけたの、サイコーだったぜ』
「そんなことより岸谷くんが! 行方不明って」
『みたいだな。ま、自力で抜け出してるかもな』
「そんなのわからないよ。だって、もしかしたら――」
『アイツはそうする。アイツの負けは北峰の負けだ』
「それは今どうでもいいでしょう!?」

 北峰のトップとか、そういう問題じゃない。三日間も連絡が取れないのは、彼が連絡手段が使えない状況にいる可能性があるということだ。大怪我をして倒れているかもしれないし、拘束されて監禁状態なのかもしれない。