乱入してきた私を、その場にいた誰もが驚いた顔をして見ていた。安藤くんが邪魔をするなと撒き散らしているが、今の私には自分の心臓の音しか聞こえてこない。考えるよりも先に身体が動いたといってもいい。

「井浦、てめえも邪魔すんのか!」
「…………邪魔してんのどっちよ」
「あぁ?」
「睨まれたからって全員が安藤くんの邪魔をするとは限らないでしょ! こんなところで騒ぐから、いつまで経ってもゴミ捨てに行けないし帰れない、大会が近いのに騒ぎが気になって部活に集中できない。ちょっとは周りの迷惑を考えてよ、このバカ!」
「バッ――」
「だから話して。一人で焦ってないで教えて。二人を殴ってても聞き出そうとしていたからには、何か理由があるんでしょう?」

 安藤くんは喧嘩っ早いが、暴れるときは人の目のつきにくい場所を選ぶと、前に岸谷くんが言っていた。好戦的ではあるが、教師の目が付きやすい校内では校舎裏や体育館倉庫といった、あまり人が立ち寄らない場所を選んでいる――本当は喧嘩自体やめてほしいんだけど――とするならば、そんな彼が校内で、多くの生徒や教師が行き交う中庭で騒ぎを起こすとは到底思えなかったのだ。
 ようやく落ち着いてきたのか、安藤くんは握りしめた拳を力なくほどくと、悔しそうに肩を落とした。

「なんでお前なんかに……」
「言ってみないと分からないでしょ。話して」
 
有無を言わさず問えば、観念したように安藤くんは言う。

「岸谷と……三日前から連絡が取れねぇんだよ。仲間の話じゃ、南雲の奴にウチの一年が袋叩きにあったから一人で話をつけに行くって……それっきりだ」

 開いた口が塞がらなかった。