「――ったく、話が通じねぇ奴だな! あれか、てめぇも俺に喧嘩売ってんのか」

 後ろから安藤くんの苛立った声が聞こえてくる。周りの生徒が辞めるように声をかけても、誰も間に入って止める様子はない。
 でも私は関係ない。関わるべきじゃない。

「佐野先輩、逃げてください!」
「出てきちゃだめ!」

 安藤くんが右腕を大きく振り上げると、今まで後ろで怯えていた船瀬くんが佐野さんに覆いかぶさった。事の発端は船瀬くんが逃げたからだ。庇って当然の行動だろう。
 それを見た安藤くんはニヤリと笑みを浮かべて振り上げた拳を握り直した。

「だったら買ってやらぁ! 顔が歪んでも知らねぇぞ!」

 拳が二人めがけて振り下ろされる。
 私は関係ない。これ以上関わるべきじゃない。

 ――だからって、友達を見捨てていいわけがない。

「――――っ、どいて!」

 私はペットボトルが詰まったゴミ袋の口をしっかり縛って持つと、野次馬の生徒の間をかき分け、安藤くんに向かってゴミ袋を投げた。
 パンパンに詰め込まれていた袋が安藤くんに当たると同時に縛った口がほどけ、ペットボトルが空中に撒き散らしながら、袋から零れて地面に落ちていく。中には飲み残しが入ったままだったのか、コンクリートに染みを作っている。ペットボトルとはいえ、大量に入っていたゴミ袋を当てられた安藤くんは体勢を崩し、振り下ろした拳は空振りに終わった。