すべての授業を終え、高校最後の部活動に励むクラスメイトが早々に教室を出ていく。
 元から部活に入っていない私は急ぐこともなく、当番だった教室の掃除をしていた。教室内でも滅多に話さないが、部活の大会が近い男子生徒たちが適当に掃除をし、短時間で終わらせてくれる。私はその間、机を拭いて、彼らがまとめたゴミを捨てに行く。もちろん私が教室に戻るまで、彼らが待っていることはない。まとめ終えたと同時に教室を飛び出して行くのだ。
 部活棟に行く道中にゴミ捨て場があるのだから、ついでに捨ててくれればいいのに。――とは、思っても言わない。

「井浦さん、今日もゴミ捨て頼んでもいい?」
「あ、うん。そこに置いて」
「ありがとう! 助かったー!」

 彼らは掃除道具を片付けると、大急ぎで教室から出て行った。せっかく縦一列に並べた机が一瞬で乱されてしまうから、正直やめてほしい。……と言っても、結局談笑するために残っているクラスメイトによって次第にずれていくのだから、言っても無駄なんだろう。
 ある程度列を直してから、ゴミ箱の前に無残に置かれた袋を持つ。大した重さではないが、溜めに溜めたペットボトルがこれでもかと詰め込まれている。少量だからと誰も持って行かなかった結果だ。
 ゴミ捨て場は中庭の向こう側にある。一応生徒会から遠回りするようにと言われているが、多くの生徒が中庭を突っ切っている。途中にできた水溜まりさえも軽く跳び越えて行く姿は、ある意味一種の競技のようだ。 
 途中で袋が破けないか心配しながら中庭に出ると、何やら昇降口に近い方から怒鳴り声が聞こえてきた。聞きつけた生徒が野次馬のように集まっている。

「関係ない奴が出てくんじゃねぇよ! どっか行け、俺はソイツに用があんだよ!」
「だからって強引に連れていくことないでしょ!」

 聞き覚えのある声がして、生徒の間を掻い潜って覗き込む。
 騒ぎの中心は安藤くんと佐野さんだった。顔を真っ赤にして怒りに震えている安藤くんに対し、佐野さんは右腕を抑えながら怯えている船瀬くんを庇うようにして対面している。顔色からは恐怖が滲み出ていた。

「ねぇ、これはなんの騒ぎ?」
「え? い、井浦さん!? えっと……実は――」

 近くに同じクラスの子がいて――ほとんど話したことないけど――聞いてみると、佐野さんと船瀬くんが話しているところに安藤くんが割って入ってきたらしい。
 強引に怪我をしている船瀬くんの右腕を掴んで連れて行こうとするのを佐野さんが引き留め、終いにはベンチのひじ掛けを蹴りでへし曲げて脅し始めたという。
 これは不味いと見ていた生徒が職員室まで行って先生を呼んできたはいいものの、安藤くんの不良仲間に羽交い絞めにされて身動きが取れないらしい。背伸びをして見えたのは、対峙する佐野さんたちと、柔道部の顧問をしている先生一人に対して不良男子三人がかりで抑え込んでいるのが見えた。
 さすがにやりすぎだ。ここまでくると見ているこちらがヒヤヒヤする。