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 その日以来、船瀬くんと会っても挨拶程度で、それ以上踏み込んで話すことはなかった。
 私が怪我について指摘したことで何か察したのか、はたまた自分が去り際に言い残したことが尾を引いているのかはわからない。この状況で話しかけても逃げれてしまうと思い、私も彼から距離を置くことにしていた。

「井浦ちゃんおっはよーっ!」

 それから三日ほど経ったある日の朝、昇降口で偶然佐野さんと居合わせた。いつも通りの校則ギリギリの身だしなみをして、手にはスクールバッグの他に、星のシールが貼られているビニール傘を持っている。今日も昼過ぎから雨の予報だ。
 しかし、いつもと違ったのは彼女の隣にいるのは同じクラスの友人ではなく、船瀬くんだったことだ。黒髪の隙間から見えた彼の目が合うと、苦い笑みを浮かべた。

「お、おはようございます……」
「おはよう。船瀬くんと佐野さんが一緒って珍しいね」
「そうなの! 聞いて、ちょーびっくりしたんだから!」

 興奮気味に話す佐野さんによると、二人は同じ最寄り駅を利用しており、自宅もそんなに離れていないことをつい最近知ったらしい。聞けば同じ小中学校に通っていたのだという。
 確かに住んでいる地域によっては、生まれたときから高校まで一緒というケースは充分ありえる話だが、まさか最近話すようになった先輩後輩が知らずに接していたなんてと、とても驚いたそうだ。

「ウチの中学校、学年でも二クラスあったら多いところだったし、大半が同じ小学校からのエスカレーター式だったから後輩でも顔見知りって結構あるんだけど……なんで私、淳太のこと知らなかったんだろう? 絶対会ってるはずなのに……」
「あ、はは……僕はよく隠れてましたし、帰宅部でしたから先輩方との関わりはほとんどありませんでした。それに佐野先輩と僕は二年の差があります。小学校はともかく、中学は一年しか被っていませんし、お互い覚えていなくても仕方がないですって」
「うーん……そうかなぁ」

 絶対見てるはずなんだけどなぁ、と佐野さんは小さく呟きながら首を傾げる。

「それじゃあ、今日一緒に登校したのは偶然……?」
「いえ、佐野先輩に最寄り駅で待ち伏せされてたんです」
「ちょっと! それじゃあ私がストーカーみたいじゃん!」
「違うんですか?」
「違うよ! ただ電車待ってたら淳太が来ただけでしょ」

 なんだこれ。