女子が一人に対して男子が四人。上履きの色で同学年だとわかるが、男子がやけに声を荒れていた。無理やり連れて来られたのか、彼女の顔は真っ青だった。
すると、隣で袴田くんが呆れたように大きな溜息を吐いた。
『岸谷じゃん……懲りねぇヤツ』
「知ってるの?」
『俺のこと敵対視してたサッカー部の奴だ。ずっと先発組で、クラスメイトからの人望がある。確か前に女を取られたとかで殴りこんできて、何度か返り討ちにしてやったな。実際は濡れ衣だったし。興味もねぇ』
逆恨みされて返り討ち……。少しだけ岸谷くんを理不尽に思ってしまった。
懐かしそうに目を細めた袴田くんはさらに続ける。
『あの後部活に復帰するって話を聞いたが……』
「サッカー部に? 喧嘩まで発展してるなら顧問が許すわけないんじゃない?」
『だよな。ってことは、アイツはまたくだらねぇことしてんだな』
「……どういうこと?」
『まあ見てなって』
そう言って、彼らのいる扉の近くに目を向ける。ちょうど男子生徒――岸谷くんが、逃げ出そうとする女子の腕を掴むところだった。
「離して……っ痛い!」
「だって吉川、こうでもしなきゃ俺の話聞いてくれねぇじゃん!」
「乱暴する人の話なんて聞けないわ!」
吉川と呼ばれた女子は、強引に彼の払ってその場から離れようとするが、残りの三人がドアの前で仁王立ちで遮っている。逃げ道は他に見当たらない。
ただの修羅場にしか見えないんだけど。
「岸谷くんがどうして、どうしてこうなっちゃったの!?」
「うるせぇ! 大体、お前が袴田に近づいたからいけねぇんだよ!」
岸谷くんの口から、私の隣にいる人物の名前が出た。
思わず袴田くんの方へ目を向けるも、彼はただじっと怒り狂う岸谷くんを見つめていた。
「それはっ! でも、それで岸谷くんを怒らせた理由には――」
「お前が思っているくらい単純な理由だよ! 本来ならお前に当たる理由もないのかもしれない。でもな、俺がどんなに辛かったか、お前にはわからねぇだろ!」
岸谷くんは叫びながら、彼女の制服を掴んで引き寄せると、反対の右手で握りしめた拳を振り上げた。吉川さんは怯えて目をっぎゅっと瞑る。
彼の拳が彼女の鼻先に届くまで、あと約三十センチ。目の前の光景がスローモーションのようにゆっくりと動いて見えた。
「――っ、ダメ!」
すると、隣で袴田くんが呆れたように大きな溜息を吐いた。
『岸谷じゃん……懲りねぇヤツ』
「知ってるの?」
『俺のこと敵対視してたサッカー部の奴だ。ずっと先発組で、クラスメイトからの人望がある。確か前に女を取られたとかで殴りこんできて、何度か返り討ちにしてやったな。実際は濡れ衣だったし。興味もねぇ』
逆恨みされて返り討ち……。少しだけ岸谷くんを理不尽に思ってしまった。
懐かしそうに目を細めた袴田くんはさらに続ける。
『あの後部活に復帰するって話を聞いたが……』
「サッカー部に? 喧嘩まで発展してるなら顧問が許すわけないんじゃない?」
『だよな。ってことは、アイツはまたくだらねぇことしてんだな』
「……どういうこと?」
『まあ見てなって』
そう言って、彼らのいる扉の近くに目を向ける。ちょうど男子生徒――岸谷くんが、逃げ出そうとする女子の腕を掴むところだった。
「離して……っ痛い!」
「だって吉川、こうでもしなきゃ俺の話聞いてくれねぇじゃん!」
「乱暴する人の話なんて聞けないわ!」
吉川と呼ばれた女子は、強引に彼の払ってその場から離れようとするが、残りの三人がドアの前で仁王立ちで遮っている。逃げ道は他に見当たらない。
ただの修羅場にしか見えないんだけど。
「岸谷くんがどうして、どうしてこうなっちゃったの!?」
「うるせぇ! 大体、お前が袴田に近づいたからいけねぇんだよ!」
岸谷くんの口から、私の隣にいる人物の名前が出た。
思わず袴田くんの方へ目を向けるも、彼はただじっと怒り狂う岸谷くんを見つめていた。
「それはっ! でも、それで岸谷くんを怒らせた理由には――」
「お前が思っているくらい単純な理由だよ! 本来ならお前に当たる理由もないのかもしれない。でもな、俺がどんなに辛かったか、お前にはわからねぇだろ!」
岸谷くんは叫びながら、彼女の制服を掴んで引き寄せると、反対の右手で握りしめた拳を振り上げた。吉川さんは怯えて目をっぎゅっと瞑る。
彼の拳が彼女の鼻先に届くまで、あと約三十センチ。目の前の光景がスローモーションのようにゆっくりと動いて見えた。
「――っ、ダメ!」