言葉とは裏腹に、彼はどこか落ち着かない様子で視線が動く。
 私は何となく、彼が今かつてないほど戸惑っているのだと思った。それほど佐野さんは真っ直ぐで眩しくて、どう返していいのかわからないのだ。ただ私が、人と関わらなさすぎただけなのかもしれないけれど。
 しかし、船瀬くんは意外にもすぐに冷静になって頭を下げた。

「お気持ちだけで結構です。先輩たちは僕なんかよりも、他の人を助けてあげてください」
「……どういう意味?」
「そのままです。……それじゃ、僕はこれで失礼します。雨、降るんでしょう? 早く校内に入ってくださいね」

 船瀬くんは変わらず笑みを浮かべて、その場から颯爽と立ち去った。先程までそこに座っていた彼の方を向いたまま、佐野さんは呆然と宙を見つめる。いつになく寂しそうな顔をしていた。

「……雨」

 ぽつり、とテーブルに一滴落ちる。それにつられてまた一滴、一滴と染みを作っていく。彼女の言う通り、食事を終えた後に降り始めた。