「そういえば、さっきぶつかったとき、誰かに押されてなかった?」
「後ろには誰もいませんでした。掴まれた感覚はしたんですけど……きっと購買パンの争奪戦に勝つために誰かが後ろから押したんでしょう。井浦先輩こそ大丈夫でしたか?」
「う、うん……気にしないでね」

 ごめん、あれは全部わざとだったんだよ――と口を滑らせそうになるのをこらえて苦笑いで返す。
 黒幕の袴田くんはというと、船瀬くんの隣に空いた一人分のスペースに座って口元を緩ませ、この状況を楽しんでいるように見えた。

「井浦ちゃん、本当に大丈夫? 結構鈍い音が聞こえてたけど……」
「確かに痛かったけど……でも船瀬くんは額をぶつけてたからそっちの方が心配」
「ぼ、僕は頭だけは丈夫なんです。本当、すみません」
「あ、謝らなくていいから! あれは避けられなかっただろうし」
「いいえ、僕が浮かれていなければぶつかることはなかったんです。もしかして、骨とか折れてます? 治療費が必要なら払いますので言ってくださ――」
「待って、その被害妄想ストップ!」

 話しているうちにどんどん悪い方向へと進めていく船瀬くんに待ったをかける。どうやら彼は根っからのネガティブ気質らしい。悪いことではないけれど、彼自身が責任を感じる必要はどこにもない。
 袴田くんには今まで巻き込んだ分も含めて責任を取ってほしいところだが。

「私も周りを見ていなかったからお互い様だよ」
「そうそう! せっかくごはん食べてるんだから楽しい話しよーよ」
「はぁ……でも良かったんですか? 僕なんかとお昼なんて、ご友人とは……」
「私が誰と食べようと問題ナシ! それに一年生とあまり関わってないから新鮮で楽しいよ」