佐野さんと購買室に向かうと、すでに戦場と化しており、生徒どころか先生までもが廊下にはみ出るほど賑わっていた。
 私は佐野さんと他愛もない話をしながら並んで、注意深く周りを見ていく。今のところ船瀬くんらしき人物は見当たらない。そもそも、彼は購買に来る生徒なのだろうか。言い出しっぺの袴田くんは直々に手を貸すと言っていたが、あの笑みを浮かべるときは大身体、悪戯を考えている時だ。

「――よ、よよ避けてくださいっ!」
「へ?」

 後ろから聞こえた慌てた声に振り向くと同時に、誰かがこちらに突っ込んできた。左肩に勢いよく額がぶつかった反動でよろけそうになるが、購買室に詰め込んでいる生徒の壁のおかげで、なんとか踏み止まる。左肩を負傷するのは、これで何回目だろうか。

「ちょっと、井浦ちゃん大丈夫!?」
「いたた……すみません、大丈夫ですか!」
「な、なんとか……――っ!?」

 顔を上げた男子生徒は額を押さえながらこちらを見る。身長は一六〇センチくらいの小柄で、目線は私とほぼ変わらない。制服に着せられている感からしておそらく一年生だろう。
 しかし、額とはいえ、私の肩の骨にぶつかったはずなのに、平然として他人の心配をしていることに驚いた。いつかの袴田くんに左肩を掴まれた時と同じくらい、尋常じゃない痛みがじんじんと響いている。かなり頑丈な石頭の持ち主のようだ。
 それよりも驚いたのは、彼の後ろでワイシャツの首根っこを掴んでいる袴田くんの姿だ。

「すみません、誰かに突き飛ばされてしまって……これが噂の購買戦争なんですね……!」

 目を輝かせて生徒の列を見ている彼は、とっくに痛みなど忘れているようだった。もしかしたら当たり所が悪かったのかもしれないと思ったが、彼は何か思い出したようにすぐに制服のズボンを叩いて焦り出した。