一応飲食店ということもあってか、岸谷くんは「何も注文しないのは店に対して失礼だから」といってコーラを注文してから私たちの隣の席に座った。
 自分が飲むわけではないようで、対面の椅子に座った袴田くんの方にストローを向ける。もはや彼が幽霊(仮)であることに違和感を覚えてしまう。袴田くんがストローでくるくるとコーラをかき回す中、岸谷くんは身を低くして声を潜めていう。

「昼間に話した別件だよ。(ふな)()がここで働いてるっていう話を聞いたんだ」

 船瀬と聞いて思い出した。どこかで見たことがあると思っていた先程の研修中の店員は、岸谷くんが隠し撮りした写真に写っていた北峰の生徒とそっくりだ。

「その船瀬って子とキッシーはどうしたいの? サインでもほしいの?」
「なぁ、俺は佐野とほぼ初対面なんだけど、そんなに砕けて話してくれんの? ってか俺の第一印象ってそんな薄っぺらい感じ? つかキッシーって俺?」
『日頃の行いってヤツじゃね。どんまいキッシー』

 くはは、とお決まりの笑い声で袴田くんが返すと、岸谷くんは大きく肩を落とした。相当ショックだったらしい。

「お前らと対峙してた安藤って奴、覚えているか? 昨日の放課後、南雲の連中と派手にやったんだ。はか……じゃなくて、井浦に負けた腹いせで喧嘩を買っちまったみたいなんだが、どうもその鉢合わせが偶然とは思えなくてな……」
「……岸谷くん、それはもっと早く言って」
「井浦には話しただろ」
「安藤くんがやられた話は初めて聞いたよ!」

 昨日のことだったからとはいえ、さすがに教えてほしかった。安藤くんは袴田くんにコテンパンにされたとはいえ、他の男子よりも体格が優れており、不良たちの中でも支持されている――と聞いている――実力者だ。決して弱い方ではないはずの彼を相手に、南雲の生徒は一身体何を考えているのか。
 しかし岸谷くんは「落ち着けよ」と先走る私を宥めた。