「あの人……?」

 彼女の視線の先――店の入口で怪しげに店内を見ている、北峰の制服を着た二人組の男子生徒がいた。どちらもよく見慣れている二人で、金髪の方と目が合った瞬間、私は顔を佐野さんの方へ戻した。
 いつかのデジャヴだ。

「井浦ちゃんが見た途端にあの人が顔色変えたけど、もしかして知り合い?」
「ううん、知らない」
「でも……」
「知らな――」
『だーぁれが知らないって?』
「ヒィッ!?」

 突然、後ろから声をかけられると同時に左肩に手を置かれた。力の入れ具合が尋常じゃないから、きっとこれは金髪の方だろう。ゆっくりと顔を向けると、そこには入口で怪しげな動きをしていた二人組――袴田くんと岸谷くんがいた。しかし、なぜか岸谷くんは私を見て目を潤ませ、ハンカチを口元に押し当ててすすり泣いていた。

「放課後に井浦がカフェで友達と女子トーク……良い友達ができて良かったなぁ……!」
『コイツ、さっきからずっと同じこと呟いてるんだよ。そろそろ飽きてきたところに、お前と目が合ったってワケ』

 目元を拭う素振りを見せる岸谷くんに、袴田くんと同時に溜息を吐いた。そんな娘の成長に感激した父親のリアクションをされても反応に困る。

「……あ、この間の仲裁に入ってきた人、だよね?」
 一人取り残されている佐野さんが聞いてくる。どうやら彼女には袴田くんの姿は見えていないようで、目線は岸谷くんだけに向けられていた。

「岸谷だ。あの時は悪かったな」
「全然平気! 私、井浦ちゃんのことばかりでお礼も言ってなかったよね」
「いや、止めには入ったがお前を守ったわけじゃないしな。それよりも井浦と仲良くしてくれたことに俺は感激して……涙が……っ」
『岸谷、コーラが飲みたい』
「自分で買ってこい!」
「井浦ちゃん、この人壁に怒ってるけど大丈夫?」
「放っておいて大丈夫。あ、佐野さん、クリーム零れちゃうよ」
「聞いて!? 頼むから!」

 お前だけはそんな心狭い奴じゃないだろ、などと聞こえてくるが聞き流す。せっかくのお茶が台無しだ。困惑した様子の佐野さんもひとまずフラペチーノを食べ進めた。

「……それで、なんでここにいるの?」