ふと顔をカウンターの方へ向けると、先程の店員がレジの前で指導を受けていた。テーブルから去るときにエプロンの胸元に「研修中」と書かれた名札が見えたから、きっと最近入ったアルバイトなのだろう。
 どこかで見かけたことがあるような気がするけど……どこだっけ?

「なーに見てんの? ……あ、さっきの店員さん?」
「いや、その……新人さんだったんだなって」
「私たちより下っぽいよね。一年生かな? アルバイトと学校の両立してすごいけど友達と遊んだり、息抜きできてるのかな?」
「ある意味アルバイトが息抜きだったりするかもしれないね」
「確かに! 私がいるクラスに金パの子がいるんだけど、その子もケバブ屋さんで働いてて、めっちゃ楽しいらしいよ。私もバイトしたいけど、さすがに今年はなぁー……髪も黒に染め直さなくちゃ。その前に夏休み中にピンクにするんだー」
「ピ……!? それって大丈夫なの?」
「多分、生徒指導にガチ説教されるー……ウチの学校、基本ちゃんと制服着てれば髪型自由、ピアスやネイル良しって校則あるじゃん? でも髪色だけは黒か茶なんだよ? 一生に一度の高校生なんだから、ちょっとくらい良いじゃんって思っちゃう。ちゃんと夏休みが明けたら黒に染め直して学校来たのに、夏祭りでピンクだったの見つけられててそのまま生徒指導室行きだったの」

 佐野さんは拗ねた口ぶりでどんどんフラペチーノを食べ進めていく。学校側からしたら「長期休み期間中でも生徒としての自覚を持つように」という意味だろうけど、喧嘩を取り締まりできていない時点で校則を守る生徒は少ないのではと思う。
 また一口ラテを飲もうと手を伸ばすと、今度は佐野さんが私の向こうをじっと見ていた。

「佐野さん?」
「ああ、ゴメンね。あの人、何してるんだろうって思って」