私たちは思わず目を見合わせて、安心したように胸を撫で下ろした。

「す、すすすみません! お客様、大丈夫ですか!?」
「大丈夫です、けど……」
「今のやばくない!? フラペチーノが自分で戻ったよ! 店員さんのハンドパワー?」
「いやいやいや! そんな超能力なんて持ってませんよ!」

 佐野さんが目を輝かせて尋ねるも、店員は引きつった笑みを浮かべるばかり。それもそうだ、目の前で誰も触れていないカップが戻るわけがない。一連の流れは時間が巻き戻ったというより、目に見えない何かが零れる寸前でカップを掴んでトレーに戻したように見えた。
 店員の彼はテーブルの上へ、慎重にトレーを置くと「大変失礼しました、それでは失礼します」と颯爽とカウンターへ戻っていった。二人だけになると、佐野さんが嬉しそうにスマホでドリンクを撮影し始める。

「すごいねーなんか良いことありそう!」
「良いこと?」
「ほら、傾きかけても自分で戻ったでしょ? 七転び八起きみたいに、転んでも立ち上がれるよって暗示みたい!」

 それはさすがに都合が良すぎる気がする。……が、考え方が彼女らしいと納得してしまう。
 私は注文したラテを一口飲んだ。ナッツ風味の甘さ控えめのカフェラテに、甘いクリームとほろ苦いキャラメルが合わさって絶妙なバランスに頬が緩む。普段カフェにきてもコーヒーか紅茶くらいしか飲まない私にとって、これもまた新鮮な身体験だった。
 ただ、佐野さんが注文したフラペチーノ――どう見てもパフェにしか見えないが――は遠慮したい。食べることに苦戦して、ケーキの半分もいかないうちに液状と化してしまう気がする。