学校からカフェまでの道のりは、佐野さんの質問攻めが続いた。
 名前の話から好きな食べ物、休日は何をしているかとか。ほとんど正確に答えられたものはなかったが、彼女は物珍しそうに聞いてくれた。

 ちなみに私の名前の「楓」は、母方の実家に植わっている紅葉の木から取ったものらしい。イロハモミジという種類のようで、ムクロジ科カエデ属に属しているから「楓」。もし私が男の子として生まれていたら、クロジとでも名付けられていたのだろうかとふと思った。

 しばらく歩いて佐野さんがよく訪れるというカフェに入る。コーヒーをメインに展開している大手チェーン店だが、小道にひっそりと開いているため、平日の夕方でも人は疎らだった。
 佐野さんは新作のレアチーズケーキが丸ごと乗った、ブルーベリーソースがかかっているフラペチーノを、私は彼女が飲みたそうに見ていたキャラメルクランチのクリームが乗ったカフェラテをアイスで注文する。
 どうやらトッピングに時間がかかるようで、席まで持ってきてくれるという。店の奥にあるソファー席を取って、私が入口に背を向けて彼女と対面する形で座った。

「先週からずっと楽しみにしてたんだー。井浦ちゃんと来れてよかった」
「先週から?」
「だってこれは絶対井浦ちゃんと一緒に行くって決めてたから。私がいつから誘おうと思ってたか、知らないでしょ?」
「まぁ……クラスも違うし、教室の端っこだし」
「そんな暗いこと言わないの。井浦ちゃんもさっきの子たちも同じだよ。最初の一言で印象が決まっちゃうもん。だから傘泥棒を探しているとき、井浦ちゃんに強く言い過ぎたなって思って。怖いイメージ持たれたかもって心配だったんだ」
「……誰でも、大切なものが無くなったら焦るものだよ」

 ふと、彼女が殴りかかってきた安藤くんに立ち向かおうとしていた姿を思い浮かんだ。コンビニで七百円程度の、どこにでも売っているビニール傘一本の為に、自分よりも体格の大きい不良男子に堂々としていた。最初はたかが傘ごときで、と思っていたけど、彼女はあの場にいた誰よりも真剣だった。