何を今更、と言いたげな表情でさらっと口にした袴田くんに、私は思わず後ずさった。
 殺された? 袴田くんが?
 彼は学校だけでなく町全身体に顔が知られている。そんな彼が誰かに意図的に突き飛ばされ、事故に遭ったとでもいうのか。実際に本人がそう言っているのなら本当かもしれないが、幽霊(仮)である彼がどうやってそれを証明できるのか。仮にもしあるとするならば、彼が突き飛ばした張本人の顔を見たことだ。想像したくはない仮説が浮かんで、冷や汗が頬を伝う。

『――なんてな、冗談。そんな地球最後の日みたいな顔すんなよ。俺自身、わかってねぇから』
「……ビックリしたぁぁぁ!」

 焦った。本当に呪い殺しにきたのかと思った。
 ただでさえいろんなところに喧嘩をしてきた彼だ。恨まれるようなことの一つや二つ、あってもおかしくはない。

『そんなにビビんなよ。ほら、死んだ人間ができることなんて傍観するくらいなんだから』
「袴田くんだったら普通に殴り合いとかできそうだけど……」

 現に掴まれた左肩は狙ったかのように指が関節に食い込んでおり、骨ごと引き千切られてしまうのではないかと思うほど痛かった。今も少し動かしただけで痛む。

『悪いな。この状態になってから力の加減がわからなくてさ』
「そもそも幽霊って物を掴めるの? さっき投げたシャーペンはすり抜けていたけど……」
『物によるんじゃねぇ? 幽霊は物身体掴めないけど』

 幽霊だから物身体が掴めない? ……ということは、彼は幽霊じゃない?
 しかし、投げたシャーペンはすり抜けていた。彼にはその調整ができるのか、あるいは――。

「実は生きてました、っていうドッキリの可能性は……」
『死者への冒涜だぞ。謝れ』

 自分が死んでいる自覚はあるらしい。