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岸谷くんの話は一度保留にさせてもらい、私たちは教室に戻った。
袴田くんが悪戯しがちな国語の原先生が受け持つ授業だったが、今日は珍しくいつもの席に座ってじっと外を見つめていた。教室にいるときは机の上にべったりと貼りついているか、ふざけて話しかけてくるかのどちらかなのに、静かにしている彼が少し気味が悪い。
そういえば彼が生きている時も、不良のわりにはしっかり授業に出ていた気がする。ただ机の上で寝そべりながら先生の話だけ聞いてるだけだったけど、定期テストでどの教科も平均点は取ってたんだっけ。だから先生も、喧嘩のこと以外はしつこく指導してこなかった。やることはすべてやり遂げているから。
こうやって思い返してみると、彼が亡くなったのは数か月前の話なのに、随分昔のような気がする。
まだ私は袴田くんの姿が見ることも話をすることもできるけど、岸谷くんはともかく、他の人は話すどころか、姿さえも見ることができない。
だから皆、忘れないように前を向くことを決めた。特に今年は受験や就職の年。いつまでも悲しみに浸っている暇はなくて、時間が急かすように背中を押してくるから進むしか方法がない。
ならば私は、彼によって時間を止められているとでもいうのだろうか。
先生の話に耳を傾けて黒板の板書をノートに書き写す中、つい先程まで窓の外を見ていた袴田くんがつまらなさそうに黒板に目を向けていた。少し目を伏せた横顔は相変わらず整っていて、あんなに強くて恐ろしいのに、どこか儚くて迷っているような雰囲気だった。
――迷っている?
あの復讐を果たした彼が、こんなことで悩むのものなのか?
復讐劇を目の当たりにしたあの日、これで本当によかったのかと彼に聞けなかった。最後の忠告を前にして、私は止めることも問いただすことも出来なかった。
躊躇ったかもしれない。震えていたかもしれない。――それでも彼は、意気揚々と復讐を遂げた。
あの日からずっと、彼が何を考えているのかわからない。知る方法が何一つない。
そして今も、彼の存在を肯定する自信が、私にはなかった。
岸谷くんの話は一度保留にさせてもらい、私たちは教室に戻った。
袴田くんが悪戯しがちな国語の原先生が受け持つ授業だったが、今日は珍しくいつもの席に座ってじっと外を見つめていた。教室にいるときは机の上にべったりと貼りついているか、ふざけて話しかけてくるかのどちらかなのに、静かにしている彼が少し気味が悪い。
そういえば彼が生きている時も、不良のわりにはしっかり授業に出ていた気がする。ただ机の上で寝そべりながら先生の話だけ聞いてるだけだったけど、定期テストでどの教科も平均点は取ってたんだっけ。だから先生も、喧嘩のこと以外はしつこく指導してこなかった。やることはすべてやり遂げているから。
こうやって思い返してみると、彼が亡くなったのは数か月前の話なのに、随分昔のような気がする。
まだ私は袴田くんの姿が見ることも話をすることもできるけど、岸谷くんはともかく、他の人は話すどころか、姿さえも見ることができない。
だから皆、忘れないように前を向くことを決めた。特に今年は受験や就職の年。いつまでも悲しみに浸っている暇はなくて、時間が急かすように背中を押してくるから進むしか方法がない。
ならば私は、彼によって時間を止められているとでもいうのだろうか。
先生の話に耳を傾けて黒板の板書をノートに書き写す中、つい先程まで窓の外を見ていた袴田くんがつまらなさそうに黒板に目を向けていた。少し目を伏せた横顔は相変わらず整っていて、あんなに強くて恐ろしいのに、どこか儚くて迷っているような雰囲気だった。
――迷っている?
あの復讐を果たした彼が、こんなことで悩むのものなのか?
復讐劇を目の当たりにしたあの日、これで本当によかったのかと彼に聞けなかった。最後の忠告を前にして、私は止めることも問いただすことも出来なかった。
躊躇ったかもしれない。震えていたかもしれない。――それでも彼は、意気揚々と復讐を遂げた。
あの日からずっと、彼が何を考えているのかわからない。知る方法が何一つない。
そして今も、彼の存在を肯定する自信が、私にはなかった。