「……あの、水を差すようで悪いんだけど直接話してもらってもいい? そろそろ面倒臭い」

 すでに相談から口喧嘩へ移行し始めている。このまま彼らの間に挟まれていると、きっと殴り合いに発展する可能性が高い。やるなら二人で勝手にやってくれ。私を巻き込むな!
 すると、しばらく苦い顔をしていた袴田くんが給水タンクから降りると、岸谷くんにも自分の姿が見えるように切り替えたのか、突然岸谷くんが小さく悲鳴をあげた。
 目の前に現れた袴田くんに、彼は一瞬だけ嬉しそうな笑みを浮かべて、すぐ元に戻った。本来であれば、二人はもう二度と会えない。高二の秋で時間が止まった袴田くんに対して、着実に進んでいく岸谷くん。亡くなった約一か月後に思ってもいない再会を果たしたが、素直に喜べるものではなかったと思う。
 袴田くんは気怠そうに頭を掻きながらフェンスに寄りかかった。

『……それで? 俺が井浦の身体を乗っ取って喧嘩したとして、今度は井浦に矛先が向くぞ』
「それは絶対にさせない。お前がいつ居なくなるかわからないし、井浦に余計な喧嘩をさせたくない」
『まぁ……妥当か』
「なんか私を巻き込む前提で話が進んでいるのがどうしても解せないんだけど。袴田くんが乗っ取らなければ、喧嘩しなくて済む話は最初からあったよね?」
「ただ、事情を知っている井浦だからこそ頼みたいことがある」

 私の話を軽く流して、岸谷くんはポケットからスマホを取り出してある画像を差し出した。
 隠し撮りだろうか、中心に写っている人物――北峰の制服を着た黒髪の少年が、南雲の生徒と何か話している様子だった。

『岸谷、お前……盗撮とか趣味悪ぃな。ちゃんと許可取ったのか?』
「ちげぇよ! 今はそんなふざけた話要らねぇんだよ!」
「……ごめん、私もちょっと」
「井浦まで勘違いしてんじゃん! 俺が変人扱いされたらお前のせいだからな、袴田!」
『いやいや、証拠が揃ってんだ。諦めろ』
「誤解を生むようなこと言うなって! この黒髪の奴は北峰の生徒なんだが、ちょっと厄介なことに巻き込まれてるみたいでさ。俺が話しかけると南雲の奴らに気づかれるかもしれない。そこで井浦、コイツに探りを入れてくれないか? それが今回、お前らに頼みたいことだ」