北峰が南雲と喧嘩を始めたのは最近のことではない。私たちが入学する数十年前――北峰に在籍していたマドンナ的存在の女子生徒に一目惚れした南雲の生徒が、強盗犯のごとく乗り込んできて婚約者によって追い返されたことが発端だと言われている。それからは些細なことで殴り合いの喧嘩が勃発し、警察も出るほどの騒ぎにまで発展していった。
 ここ数年は落ち着いており、北峰に最強の不良が現れたことから喧嘩に発展すること自体が減っていた。しかし、昨年の秋頃に起こった大きな出来事――袴田玲仁の死によって、北峰の体制が一気に崩れてしまった。それを耳にした南雲の生徒が「袴田がいなければ勝てるのでは」と大きく出るようになり、奇襲をかけてくる頻度が増えたのだとい。

「最近は特に放課後が多い。今日なんて昼間にも関わらず学校にまで入ってくる勢いだ。どうにか食い止めねぇと……」
「これはもう学校に任せた方がいいんじゃない? 今のだって完全に不法侵入だもん。さすがに警察だって動くんじゃないかな」
「今日来た奴らはな。南雲には他にも喧嘩っ早い奴は沢山いる。ゼロにするのは難しいぞ」
『ケッ。普段からくだらねぇ喧嘩を買うからだろ。ただでさえ曖昧な線引きなんから、お前らの力不足だ。……って言っとけ』
「……だって」
「いや……そんな通訳されてもな」

 袴田くんからの容赦ない指摘を一文字も違えずに伝えると、溜息と同時に大きく肩を落とした。確かにその通りかも知れないけど、袴田くんはもう少しソフトに言えなかっただろうか。

「確かに北峰全体の力不足、トップを失った今の統率問題でもある。そりゃあ、袴田がいた頃は自分が負けても必ずお前が借りを返してくれるって思ってたし」
『捨て身の覚悟を人任せにしてんじゃねーよ。やる気がねぇなら喧嘩なんてやめろ。さっさと白旗を上げちまえ』
「お前だってわかってるだろう? 最強だと謳われた存在がいない今、北峰は格好の餌食なんだ。お前がいた頃とは各段に戦力は減った。でもここで白旗を上げれば弱い存在として終わる。今まで先輩たちがしてきた喧嘩がすべて無駄になっちまう!」
『俺が抜けただけで弱いとかふざけてんの? てめぇらでどうにかしろ』