以前にも少しだけ話したことがあるが、私が通う学校――北峰高校は不良の多い学校で有名だ。
 授業を抜け出して喧嘩に加勢しにいく生徒は後を絶たない。その対策として、校門付近に警備員を三人体制で監視している。もちろん、関係者以外の立ち入りも禁止されているため、他校の生徒が敷地内に入ってくることはほぼありえない。

「いったいどうやって……」
『んなもん、正面突破で警備員を黙らせたに決まってんだろ。俺たちが規則を守っても、向こうが破ってくるなら迎え撃つ。……それが北峰の不良だって、どっかの先輩が言ってた』

 給水タンクの上に乗ったまま、袴田くんはじっと彼らの動きを見て観察していた。
 最初は睨み合っていた彼らは、次第に雄叫びを上げながら殴り合いに発展していく。まだ授業が始まっていないこともあって、廊下から顔を覗かせる生徒が出てきたようで、微かながらも物珍しさから楽しむ声が聞こえてくる。
 すると、校内に続く扉が開いて、いつになく真剣な顔つきの岸谷くんがやってきた。

「やっぱりここか、井浦。袴田も一緒か?」
「無理!」
「まだ何も言ってねぇよ」
「袴田くんを乗っ取らせてアレを止めろって言うんでしょ? 絶対無理!」

 袴田くんがいくら強いとはいえ、実際に動くのは私の身体だ。あんな暴動に突っ込まれたら悪目立ちすぎて学校に来れなくなる。すでに先生から目をつけられているというのに、こんなことで退学になりたくないし、内申点もこれ以上下げたくもない。
 すると岸谷くんは「ちげぇよ」と小さく溜息をついた。

「あれは袴田の手を煩わせるほどのモンじゃねぇよ。死んだ人間に頼るなんてもってのほかだ。別件だよ、別件。まぁ……アレ絡みなんだけどな」

 困ったような口ぶりでフェンスの向こう側に目を向ける。ちょうど繰り広げられた喧嘩がひと段落したところで、校舎から怒鳴り声を上げながら、複数の先生たちが駆け寄ってきていた。他校の生徒たちは捕まらないように、ボロボロの身体に鞭打って外へ逃げていく。
 別件であの喧嘩が絡んでいる――ということはやっぱり不良の喧嘩関係じゃん。
 私が恨めしそうに岸谷くんを睨むと、苦い笑みを浮かべた。