私はというと、その場に座り込んで大きく溜息を吐いた。彼らの攻撃をすべてかわしてくれたおかげで怪我はしていないものの、授業の体育の時以外に運動をしない私の身体は筋肉痛になりやすい。たとえ私が運動部に所属していたとしても、袴田くんの運動量にはかなわず、回避できなかったと思う。動いてすぐに筋肉痛が来ていることだけは、唯一の救いかもしれない。

「今は……井浦か?」
「今じゃなくても井浦だけど!」

 岸谷くんとはあの件以来、話をすることが増えた。ただ困ったことに、私のところに来れば彼が近くにいるという、なんとも悲しいハッピーセット扱いをされている。
 会う度に袴田くんが身体を乗っ取っているのかと確認するのはやめてほしいと頼んだもの、「袴田はともかく、井浦を間違えたら失礼だから」と真顔で言われて渋々諦めることにした。完全に不良から真面目クンになっていて、どれが失礼かも判断が鈍ってしまったのかもしれない。そんなことを思ってしまう私の方が失礼なんだろうけど。

「岸谷くん、クラス離れているのに、なんでここがわかったの?」
「移動教室の戻りだったんだ。途中で生徒指導に捕まってたところに、廊下からすげぇ音が聞こえたから来てみたら、案の定お前らが暴れてたってわけ」
「……なんで岸谷くんが生徒指導に捕まってるの?」
「そこは突っ込んでくるな」

 苦い顔をしながら咄嗟に右手を後ろに隠す。一瞬だけ見えた手の甲に巻かれた包帯から察するに、どうやらまた他校の生徒と喧嘩したらしい。

「まぁ、俺からしたら良いタイミングだったんだ。だから気にすんな」