袴田くんとは二年生に進級したクラス替えで初めて一緒になった。
 入学する前から問題児として有名な彼だったが、クラスメイトには友好的に接していた。多くの生徒から「見た目は恐いけど良い奴」として見られていた気がする。ある意味、人気者と言ってもいいかもしれない。
 人気者がいるその裏で、いつも教室の端にいて目立たないようにしている人がいる。――それに該当するが私だ。
 特に取り柄もなく、人付き合いが悪くてクラスメイトとも必要な時以外ほとんど干渉しない。新しいクラスになってからも距離を取られるほど、話しかけにくい空気が漂っているように思われて一線を引かれていた。
 天と地の差があるほど、交友関係も容姿も正反対な彼と隣の席になった時はくじ引きを恨んだが、彼からは挨拶程度の会話以外、話しかけてこなかった。
 だから少し安心していたのだ。こんな人と仲良くなった暁には、きっと私は高校生活を後悔すると。
 ――今思えば、その直感は正しかったのかもしれない。

『うっわ! 屋上とかチョー久々! 授業サボってるときにはうってつけの場所だよなー』

 なんとか授業を終えることができたものの、これ以上無視し続けるのは限界だった。
 次の授業が始まる前に袴田くんを屋上へ連れて行くと、解放されたかのように大きく伸びをした。外は秋晴れの青空が広がり、空気は冷たくも澄んでいた。

『連れ出してくれてありがとな。お前が気付いてくれなかったら、机を蹴ってやろうかと思ってたところだった』
「それはちょっと横暴じゃない?」
『んで、原センセーのズラをちょっとだけ動かす。蛍光灯でテカリが反射する位置くらいに』
「悪質すぎる! 先生の毛根だって頑張った結果で生えなかったんだから労わって!」
『お前が一番酷いこと言ってることに気づけよ』

 くはは、と袴田くんが笑う。
 特徴的な笑い方もまた、生きていた頃の彼と全く変わらない。しいて言うのであれば、こんなに嬉しそうに笑う人だっただろうか? 友人と話しているときも、どこか素っ気無くて満面の笑みを見たことがない。隣の席でも必要なこと以外、話したことがなかったから当たり前か。

「……ねぇ、なんで袴田くんは、ここにいるの?」

 出入り口から少し離れた給水タンクに寄り掛かって問うと、彼はキョトンとする。

『ん? 決まってんじゃん。俺を殺した奴を、道連れするために戻ってきた』