「だってお前が『傘を盗んでいるところを見た』って言えば、他の奴に擦り付けられるし。それにビニール傘なら、柄に星のシール(・・・・・・・)が貼ってあったとしてもすぐには気づかねぇよ。そうだろ?」

 安藤くんが言えば、他の仲間も同じように騒ぎ立てる。ああ、なんて醜い。
 言い返そうと口を開いたところで、佐野さんは大きな溜息を吐いて「ちっさい男ね」と悪態をついた。

「こんな地味で根暗な子がやるワケないでしょ。大身体、なんで私の傘に星のシールが貼ってるのを他人のアンタが知ってんのよ? やっぱり盗んだんでしょ!」

 容赦のない佐野さんの言葉に彼らは顔を歪めた。反発すれば殴られるかもしれない現状に怯むことなく、真正面から立ち向かう彼女の堂々とした姿に私は驚いた。
 ……根暗だと思われていたのは、ちょっと悲しいけど。

『へぇ……言うねぇ。井浦もこれくらいやればいいのに』

 高見の見物をしている袴田くんが嬉しそうに笑う。誰のせいでこの状況になったのか、少しは反省してほしい。
 すると彼女の言葉に腹が立ったのか、安藤くんが「ふざけるな!」と怒鳴り散らした。

「勝手に人を犯人呼ばわりしやがって、いい加減にしろよ!」

 怒号とともに、安藤くんが佐野さんの肩を突き飛ばす。あまりにも強い力にバランスを崩した彼女が後ろに倒れてくると、慌てて彼女の肩を掴んで、勢い余って私も一緒に倒れて尻餅をついた。

「力がない奴がベラベラ喋ってんじゃねぇよ。それともサンドバッグ代わりになるか? あ?」
『うっわ……クズかよ。あの時から全然懲りねぇ野郎だな』

 くはは、と乾いた笑い声が聞こえると、目が笑っていない袴田くんが安藤くんと対峙した。
 ここで彼が現れて助けてくれたら、最高にかっこいいんだけどな。……生きていれば、だけど。