無事に三年生へ進級した私は、相変わらず窓側の隣の席に座っていた。
 進級してもクラスメイトの顔ぶれは変わらないのはともかく、何度席替えしても同じ席になるのは、一種の呪いではないかと疑ってしまう。原因である袴田くんに問い詰めれば『授業中に話しかけられないじゃん』と笑った。犯人が確定しても席は変わらないのだから、放っておくことにする。

 さて、季節は長い長い梅雨に入った。連日傘を持って登校していても、たまに晴れたかと気を抜いた日には、帰宅する時間帯に突然降り出すこともある。そこで頻繁に現れるのが、普段から持ち歩かない生徒による傘の盗難被害だ。
 今日は朝から、隣のクラスの女子生徒がビニール傘を盗られたと大騒ぎしていた。こちらのクラスに仲が良い友人がいるようで、ホームルームが終わってすぐ駆け込んできては延々と愚痴っている。
 ビニール傘なんて、名前を書いたところで見た目はすべて同じだろうに。

『んー……あ、あれか。昨日の放課後、茶髪で腰にチェーンつけてる奴が適当に傘盗んでたな。確か(あん)(どう)って名前だった気がする。井浦、俺の代わりに言っといてよ』
「面倒なことに巻き込まれそうだから絶対イヤ」

 窓側の席に座っている袴田くんが不貞腐れながら言う。つまらなさそうに窓の外を見ているのは、連日降り続ける雨のせいで屋上に行けなくて拗ねているからだ。物体をすり抜けてしまう幽霊(仮)の彼がどうやって雨に濡れるのか、今度聞いてみよう。
 いや、そんなことより犯行現場を見てたなら止めて欲しい。名前も知ってるなら、袴田くんの友人確定じゃないか。

「ねぇ、後ろの席でボソボソ喋ってる子、もしかして知ってるの?」

 騒いでいる女子生徒――()()さんの鋭い視野が私の口元を捉えたのか、ずかずかと席に近付いてくる。毛先を遊ばせた茶髪、校則ギリギリの派手なメイク。目の前で仁王立ちの彼女を見て思わずうわぁ、と声を漏らしそうになった。人を見た目で判断すべきではないことはわかってはいるけど、どうしても彼女の方が傘を盗んだ側の人間なのではと疑ってしまう。

「コンビニでよく売っているビニール傘に、星のシールが貼ってあるんだけど見てない? それとも、私が傘ごときで騒いでいるのに呆れてたの?」
「そ、そういうわけじゃなくて、えーっと……」

 横目で隣の席を見れば、袴田くんは大きな欠伸をして窓の外を眺めていた。
 本当にコイツは……!