当時人質として店内に残っていた従業員は、テレビの取材に当時のことをこう語った。

「急に男の人が駆け込んできたと思ったら、近くにいた北峰高校の生徒さんの腕を掴んで『動くなーっ!』って叫んだんです。学生さんの首にナイフを突きつけていたので、私たちは言われた通り、商品棚で出入り口をふさいだあとはカウンターに集められて、他のお客さんと一緒に互いの腕をガムテープで拘束されました。
 交渉が続く間、男はずっと学生さんにナイフを向けていました。時間が経つにつれ、話が思うように進まなかったのか、男は苛立ちから彼女を突き飛ばしたんです。
 私たちの方には背中を向けていた状態だったので、この隙を狙って人質総出で男に身体当たりをしました。その時男が暴れ、ナイフを振り回したのですが、手から離れて学生さんの腹部に刺さって……。お客様の悲鳴と、男の雄叫びがきっかけで警察が突入してきて確保となりました。
 今でもぞっとしますよ。運が悪かったとしか言いようがない。
 そういえば、倒れた彼女の近くに、黒いローブを羽織った人がいたんですよ。顔までは見えなかったけど、金髪でした。身体格的に男性……いや、高校生くらいだったかな?
 その人、彼女の方をじっと見ているようでした。彼女は傷口を押さえながら、その人に向かって何か言っているように見えましたね。嬉しそうに泣きながら笑ってて。あれは走馬灯でも見ていたのかもしれませんね。……ああ、縁起が悪いですね。ここはカットしてください。
 それにしてもその人、不思議なんですよ。あんなに近くにいたのに、私以外、誰も気付かなかったみたいなんです。くははって変な笑い方まで聞こえたのに。……私の見間違いですかね?」