しかし、私が何を言っても、彼女は「自分は関係ない」と首を振る。そして私を押しのけて立ち上がると、歪めた顔で私を睨んだ。

「私は、関係ない……私を見なかった彼が悪いのよ!」
『もういいだろ』

 今まで黙っていた袴田くんが、いつの間にか吉川さんの後ろにまわって頭を鷲掴みした。指の血管が浮き出るほど込められた指圧に、吉川さんは思わず悲鳴を上げた。

「い、痛い! やめて、玲仁く……!?」
『軽々しく俺の名前を呼んでんじゃねぇよ』

 “手ぇ出すなよ?”

 袴田くんがこちらに目を向けた途端、見えない重圧が私と岸谷くんを襲った。身体を動かすどころか、声も出せない。悲鳴を上げた吉川さんも途端に喋らなくなり、恐怖に怯えていた。
 袴田くんは頭を掴んだまま顔を自分の方へ向けさせると、つまらなさそうに鼻で嗤った。

『俺がいなくなれば大人しくなると思ったけど、とんだ思い違いだったな。お前には最高で最悪な人生の終わり方をさせてやる。望んだ死に方なんてさせるものか。二度とコイツらの前に現れるな。……これが最期の忠告だ。自分のしたことをもう一度考えるんだな』

 くはは、と乾いた笑いを残して頭から手を離すと、袴田くんはスッと消えてしまった。
 その場に立ち崩れた彼女は放心状態ながらも、彼が居た場所を見つめて恍惚な笑みを浮かべていたのを、私は見ないふりをした。