『俺が死んだ以上、関わってくることはないと思ったが……まさか岸谷だけでなく、井浦まで巻き込むとは思ってなかったぜ。そこまでして俺にこだわる理由ってなに?』

 袴田くんはじっと吉川さんの方を見つめる。目線が交わったのか、吉川さんは途端に目を逸らし、私の方を見た。疑われたことがショックだったのか、すでに目元は赤く、瞳は潤んでいた。

「……しょうがないじゃない!」

 吉川さんはぎゅっと拳を握りしめて、袴田くんに向かって怒号を飛ばした。

「邪魔だったんだもの! 岸谷くんも井浦さんも、玲仁(・・)くんを慕う取り巻きも全員! 私はこの学校のミスコンで優勝して、大勢の人が私という存在を認めてくれたのよ? クラスの子も先生までもが私を慕ってくれた。それなのにあなたは、私に見向きもしない。何度も私を助けてくれて、そのたびにお礼をしようとしても、近寄るなの一点張り。登校するときに通るあの交差点だけが、私と玲仁くんとの唯一の時間だった。……あの日も交差点で来るのを待ってた。でも玲仁くん、私のことなんて眼中になくて、ずっと前を見てたの。私が目の前にいるのに……!」

 頬に伝う涙と共に、吉川さんはその場に座り込んだ。その姿はまるで、泣き崩れるお姫様にはほど遠く、駄々をこねる子供のようだった。

「玲仁くんだけじゃないわ。岸谷くんが最初から私を邪魔者扱いしていたのは分かってた。だから屋上に呼び出された時はラッキーだと思ったの。大勢に認められている私が殴られて怪我でもすれば、消えてくれるかもって期待したのよ。……でもよく考えたら、日常的に他校と喧嘩しているのに、一向に退学にならないものね。考えが甘かったわ」
「期待って、ふざけるな! 井浦が止めに入らなかったら、お前は怪我で済まなかったかもしれなかったんだぞ!? 下手したら死んでたかも――」
「それでもよかった! ……死んだら、私も玲仁くんのところに行けるもの。後悔なんてなかった。……あなたさえ居なければ」

 そう言って、吉川さんが私を恨めしく睨みつけた。