……それにさえときめかない私は、なんて冷めた面白みのない人間なんだろう。

『井浦? どうした?』
「……なんでもない。きっと私はこういう役割なんだってわかった」

 悲観的で、周りの人と馴染めない。思ったことを言っただけで否定される、端っこにいる存在。
 それでもいい。光があるところに影が存在するように、私がいたことで誰かが輝けばそれでいいと思っていた。――そんな私の前に、正反対の彼が唐突に現れた。

「でも私は袴田くんのおかげで、教室の端っこにいてよかったと思ったよ」

 彼がいたから人と話すようになって、あのピンチな場面でも堂々としていられた。
 いろんなことに巻き込まれた被害者側だけど、こんな友達がいてくれたら良かったなって思うくらい、この一ヵ月を楽しんでいる自分にようやく気付いた。
 すると、袴田くんは口元を緩ませて、私の頬にそっと手を添えた。

『じゃあ、俺と一緒にくる?』

 ふざけた口ぶりとは裏腹に、真剣な顔つきで聞いてくる。頬に触れる冷たい手、真っ直ぐに見つめられた瞳に思わず頷いてしまいそうだった。
 それでも私は袴田くんの手を払うと、首を横に振った。

「私、いくら袴田くんがいてもまだ行かないよ」

 死んだって何もないよ。時間が止まってしまったら、何もできないでしょう?
 だからもっと、もっと生きてみるよ。
 ようやく知った人との関わりがどれだけ心強く、楽しいものなのか、彼のおかげで知ることができたのだから。

『……ならいい。それでいいよ。井浦はそのままでいて』

 小さく溜息を吐いた袴田くんは、残念そうに肩を落とした。
 ……あれ? そういえば幽霊って触れられるんだっけ?