「……な、ななな!?」
『うるせぇ。引っかかってたフェンスは全て外した。ずっと掴んでる隣のフェンスからも手を外していいぞ』
「ほ、本当? これで手を離した途端に後ろに落とされない?」
『じゃあ落ちるか?』
「絶対やめて!」

 本当に何言ってんのコイツ!
 男子に――しかも袴田くんに――抱きしめられるなんて初めてで、さっきまで恐怖で怯えていたことも途端に飛んで行ってしまった。あれ、平常心ってなんだっけ?

『こうでもしとかないとお前、そのまま倒れるぞ。大丈夫、フェンスは落下しねぇから』

 まるで子供をあやすような優しい声に、力いっぱい掴んでいたフェンスから自然と手が離れると、私は緊張が解けて前へ倒れ込んだ。
 袴田くんが抱きとめてくれたおかげで、その場にゆっくりと座り込む。
 後ろを見れば、壊れたフェンスは絶妙なバランスで留めていた。袴田くんの身体が離れると、私は顔を上げる。

「……ありがとう」
『……ん? お前、なんで怪我してんの?』

 フェンスで切ったか? と呟きながら、袴田くんの指が伸びてくる。思わず身を引いて避けるが、彼の指が私の頬をかすめた。

「こ、これはその……」
『ああ、平手でもくらったか。最近のファンクラブ、暴力的だよなー。誰の影響を受けてるんだか』

 なんでそんなことまで知っているんだろう。思わず眉をひそめると、彼は鼻で嗤った。
 冬の澄んだ空に浮かぶ太陽の光が、風で揺れる金髪に反射して眩しい。柄にもなく、その一瞬に胸が高鳴った。こんなに近くにいたら、誰だって恋に落ちるかもしれない。
 でも彼はすでに死んでいる。
 本来は見えること自体、在り得ない話。小説にありそうな叶うことのない永遠の片想いが、こんな平凡な私の日常生活で実現するはずがない。