思わず顔を向けると、いつの間にか私が引っかかっているフェンスの上に立って、揺らして遊んでいる袴田くんの姿があった。重さを感じないのは彼が幽霊だからだろうか。

「袴田くん……!? 何してんの、バカなの!?」
『うるせぇな。質問に答えろよ。それともフェンスと一緒に落ちるか?』
「余裕ないって! フェンスが服に引っかかってるの! 握力も限界!」
『はいはい。……ったく、教室でバカ騒ぎが始まったと思ったら、こんなところにいるし』

 呆れた様子で袴田くんが降りてくるが、フェンスはその場で固定されたように傾いたまま止まった。追い風が止んだわけではないから、袴田くんが何かしら仕組んだのかもしれない。
 私の制服に食い込んだ針金を見て、彼は鼻で嗤う。

『くはは、なにこれ。自分でこれやったの?』
「私がこんなに器用だったら、裁縫針の糸通しに五分もかかってないよ!」
『かかりすぎだっての。……あーあ。しっかり食い込んでらぁ。破っていい?』
「なるべく最小限にしてくれると嬉しいな」

 袴田くんが服に引っかかっている針金外していく。多少ビリビリと破く音が聴こえるだけの、何とも気まずい空気に私は俯いた。

「……なんで来たの?」
『バカ騒ぎがあったって言っただろ。フェンスが上から落ちてきて、コンクリートでできた水飲み場に亀裂が入ったんだよ。お前の声も聞こえてたし、そろそろ他の奴らも来るぞ』
「……私の声、届いてたの? それで探してくれたの?」
『だってお前いないと喧嘩できねぇじゃん。……でもまぁ、お前をこっちに連れてくるのもアリだったな』
「え?」
『だって、隣の席でひたすら黙ってた奴が、こんなに無鉄砲で面白いなんて知らなかったから。死んで損したって思ったよ』

 いつになく優しい声色に思わず顔を上げると、突然袴田くんに正面から抱きしめられた。