「やばっ――!」

 身体を起こそうとした瞬間、フェンスに取り付けられていた金具が外れ、大きく揺れて校舎の外へ倒れ込んでいく。
 咄嗟に固定されている隣のフェンスを掴むと、波のように大きく揺れた。共倒れにはならなかったはいいけど、これでは身動きが取れない。針金の尖った先がカーディガンやスカートに引っかかって、強引に引っ張ってしまえば破れてしまうほど、深く刺さっていた。
 壊れたフェンスの一部は完全に外れ、校庭の水飲み場をめがけて落ちていく。落下と同時に辺り一帯に大きな音が響き渡ると、ここまで想定していなかったのか、彼女たちは顔を青くして悲鳴を上げた。

「ちょ……ど、どうしよう!」
「な、なんでこんなことに……?」
「知らないわよ! あの子がここに叩きつけろって言ったから……!」

 あの子?

「ちょっと待って! あの子って……」
「に、逃げよう! 私たち関係ないもん!」
「そうね……! 言われてやっただけだもの、関係ない!」

 怯えた彼女たちは、バラバラに校舎の中へ戻っていく。助けなくてもいいから、誰か呼んできてくれたっていいのに!
 悪態をついている間にも、もう片方の壊れたフェンスは校舎の外側へ傾いていく。今は半分止まったネジと私が両手で掴んでいて何度か留めているが、追い風が吹いて外へ、外へと煽ってくる。体勢を立て直そうにも、制服に引っかかった針金を外さなければならない。どうしたものか。

「……っ誰か! 誰か助けて!」

 授業中とはいえ、さっきの落下で気づいた誰かが外に出てくるかもしれない。校内の生徒や先生じゃなくても、偶然見かけた通りすがりの人が学校に連絡してくれるかもしれない。一か八か、腹の底から叫ぶ。冬の冷たい風を吸い込むと鼻がツンと痛んだ。
 しかし、何度叫んでみても誰かが来る気配はない。腕の力もそろそろ限界、風も強くなってフェンスの傾きも大きくなってきた。落下も時間の問題だ。
 せめて針金を外そうと身をよじっていると、空から気の抜けた声が聞こえた。

『助けてやろっか?』