バチン!――と屋上に鈍い音が響いた。
 先輩たちの嫉妬心を逆なでしない程度の否定をしたのが悪かったようで、目の前にいる彼女が顔を真っ赤にして、私の右頬を思い切り叩いた。

「自分がよく彼と話してるからって、いい気にならないでくれる? アンタなんて最初から眼中にないんだから!」
「……勘違いしてんのはそっちでしょ。眼中にないとか、そんなのこっちからお断り! そんなに気を引きたければ、こんな卑怯なことしないで堂々としていなよ!」

 叩かれた頬がじんじんと痛む。口の中に血の味が広がっていく。黙って先輩たちの罵詈雑言を浴びていれば、こんなことにならなかったかもしれない。
 いつもならすぐ逃げているのに、こんなに毅然としている自分は初めてだ。

「さっさと離してもらえませんか。私、関係ないんで」

 私の両腕を掴んでいる二人も怯えている。彼女の指示で腕を掴んでいるのだろうが、怯えて徐々に力が弱まっていた。

「――っ煩い! アンタが岸谷くんを狙うから悪いんでしょ!」
「狙う? 誰がそんなこと……」
「もういいわ!」

 彼女は勢いよく私の両肩を押して、近くのフェンスに叩きつけた。
 両腕は解放されたものの、反動でフェンスがギシギシと大きくしなる音が、すぐ近くで聞こえる。

 ……ちょっと待って。フェンスってこんなに不安定なものだっけ?

 視界の端に黄色のテープに黒字で太く「故障中! 触るな危険!」と書かれた注意書きが見えた。
 見えてしまった。……ってことは?