袴田くんが声を荒げたその瞬間、突然周りにいた生徒や先生が耳を塞いで唸り始めた。中にはその場に蹲って動けない人もいる。
 私には音量が少し上がったくらいにしか思わなかったのに、彼の声が聞こえない人には超音波でも聴こえているのだろうか。

「袴田くん、なんてことを……!」
『うるせぇ! お前なんかもう知らねぇ!』
「……はぁ?」

 今まで人の身体借りて好き勝手喧嘩したくせに、感謝もなければ乗っ取る頻度も減らない。
 最強の不良? そんなの知るもんか。私は彼の胸倉を掴んで怒鳴った。

「別にいいよ! こっちこそ、袴田くんなんかに心配される筋合いないから!」
「おいっ……行くな、井浦!」

 胸倉を掴んだまま向こうへ押すと、袴田くんがよろけた。
 それがどうした。一生そこでへばっとけ。
 振り返ることせず教室に入ると、誰もが私を見て気まずい顔をしていた。どことなく暗く沈んだ空気が流れている。

「……どう、したの?」

 嫌な予感がよぎる。クラスメイトの一人が震える手で私の机を指す。
 教室の一番後ろ、窓際から二番目にある私の机に、身に覚えのない罵倒が大きく書かれており、首の折れた菊の花が入ったペットボトルが置かれていた。
 ほら、言わんこっちゃない。