そう、ただ一年前に戻るだけの話。
私と袴田くんがほぼ無言で貫いた、あの日々に戻るだけ。
もう授業中に悪戯されることも、不良の喧嘩に巻き込まれることもない。あの席で他愛もない話をすることもない。――いつか訪れる未来が、少し早まっただけ。
『……いや、戻るっていう言い方は違うな』
「え?」
すると袴田くんは両手を広げ、にやりと笑みを浮かべた。
『だってお前には岸谷や佐野達がいるだろ。クラスメイトだってお前の味方をしてくれる奴がいる。一年前と比べて状況は大きく変わってる。教室で独りぼっちなんてことはない』
「――――っ!」
『胸を張れ、井浦。お前は一人じゃない』
私はもう、一人じゃない。
袴田くんが私の前に現れなかったら、今も佐野さん達とは顔見知り程度だったし、クラスメイトからはまた置物のように影の薄い存在で端にいた。あの頃とは違う。
ただそこに、袴田くんがいない。
「……そう、だけど」
袴田くんがそう言って手を伸ばし、私の眉間に寄ったシワを伸ばす。知らぬ間に溜まっていた涙が零れた。
『ひでぇ顔だな。卒業式でもそうやって泣くのか?』
「泣いてないっ……」
『泣いてんじゃん』
「だって! 一足早い卒業式じゃ、何もしてあげられないでしょ……!」」
あと数ヵ月もしないうちに卒業式がやってくる。同じ時間を過ごしてきた人たちが、それぞれの道に歩み始める、門出の日だ。その事実を噛みしめて涙していては、いつかは干からびてしまう。
でもね、悔しいんだよ。
日常に袴田くんがいない。――岸谷くん達は皆、すでにその事実を受け止めているのに、私だけが進めない。
もっと沢山話したかった。もっとあの教室で皆と騒いでいたかった。言葉が詰まるほど寂しくて、寂しくて。でも受け止めないといけない事実がすぐそこまで迫っている。
『……じゃあ、俺と一緒に来るか?』
そう言って、いつか私に言った台詞ともう一度問う。
もう彼は決めている。いや、ずっと前から決めていたのかもしれない。
私と袴田くんがほぼ無言で貫いた、あの日々に戻るだけ。
もう授業中に悪戯されることも、不良の喧嘩に巻き込まれることもない。あの席で他愛もない話をすることもない。――いつか訪れる未来が、少し早まっただけ。
『……いや、戻るっていう言い方は違うな』
「え?」
すると袴田くんは両手を広げ、にやりと笑みを浮かべた。
『だってお前には岸谷や佐野達がいるだろ。クラスメイトだってお前の味方をしてくれる奴がいる。一年前と比べて状況は大きく変わってる。教室で独りぼっちなんてことはない』
「――――っ!」
『胸を張れ、井浦。お前は一人じゃない』
私はもう、一人じゃない。
袴田くんが私の前に現れなかったら、今も佐野さん達とは顔見知り程度だったし、クラスメイトからはまた置物のように影の薄い存在で端にいた。あの頃とは違う。
ただそこに、袴田くんがいない。
「……そう、だけど」
袴田くんがそう言って手を伸ばし、私の眉間に寄ったシワを伸ばす。知らぬ間に溜まっていた涙が零れた。
『ひでぇ顔だな。卒業式でもそうやって泣くのか?』
「泣いてないっ……」
『泣いてんじゃん』
「だって! 一足早い卒業式じゃ、何もしてあげられないでしょ……!」」
あと数ヵ月もしないうちに卒業式がやってくる。同じ時間を過ごしてきた人たちが、それぞれの道に歩み始める、門出の日だ。その事実を噛みしめて涙していては、いつかは干からびてしまう。
でもね、悔しいんだよ。
日常に袴田くんがいない。――岸谷くん達は皆、すでにその事実を受け止めているのに、私だけが進めない。
もっと沢山話したかった。もっとあの教室で皆と騒いでいたかった。言葉が詰まるほど寂しくて、寂しくて。でも受け止めないといけない事実がすぐそこまで迫っている。
『……じゃあ、俺と一緒に来るか?』
そう言って、いつか私に言った台詞ともう一度問う。
もう彼は決めている。いや、ずっと前から決めていたのかもしれない。