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「――成仏できない?」

 校内を歩きまわったあと、皆がクラスの当番や巡回に戻ってしまい、行き場を失くした私は袴田くんと屋上に来ていた。近江先輩から渡された肉団子の食事券を、大事そうに上着の内ポケットに仕舞いながら思い出したように言う。
 私がいつもの給水タンクの近くに行くと、袴田くんはフェンスの前で大きく伸びをする。少し前まで見慣れていたのに、久々の光景に安堵した。
 屋上から見下ろすと、いくつもの屋台が出店している校庭から焼きそばやお好み焼きの良い匂いが風に乗って漂ってきた。お腹もそこそこ空いてくる中、あっけらかんとした口ぶりで袴田くんが言った言葉を繰り返した。

『だから、どういう訳か成仏できねーんだよ』
「で、でも心残りって……」
『最初からわかってたし、達成もしてる』
「新しく心残りができたとか?」
『ねぇな』

 当人に心当たりがなければ何も言えない。
 袴田くんが事故死した時の心残りは、間違いなく解消されたはずだ。ずっと不安定だった彼の身体が、力を蓄えて再び姿を現したことが何よりの証拠。
 しかし、力が戻ったからと言って成仏できるとは誰も言った覚えない。
 どうやったら成仏できるのか? ――幽霊である袴田くんでも分からない。
 結局憶測でしかなかったと言わざるを得ないのだ。

『まぁ予想はできてた。四十九日を過ぎてもどういうわけか地縛霊にもならない。今日で一周忌だっていうのに、俺の身体に変化もない』
「じゃあ……どうするの?」

 少し考えた素振りを見せて、袴田くんは私を真っ直ぐ見据えた。

『北峰を発とうと思う』