随分賑やかではあるものの、バスジャック事件からまだ二日しか経っていない。
 事件は「犯人は二人組の高校生で、すでに容疑を認めている」とほとんど伏せられたまま新聞に掲載された。袴田くんのことはおろか、北峰の学校名でさえ書かれていない。
 いろんな人を巻き込んだ事件がここまで伏せられることに不信感を抱く人が多く、ネット上で一時期、憶測が拡散されていたが、数時間後には全て削除されていた。
 私には記憶に新しいことではあるものの、不特定多数の人には風に吹かれてどこかに行ってしまう、埃程度のものだったのか。はたまた、誰かの手によって削除されたのか。理由は知らないままの方が身のためだと悟った。

 私は警察の事情聴取を受けた後、担任の先生と両親にこっぴどく叱られた。
 特に両親は、私が学校を抜け出すとは想像していなかったようで、中学の時のこともあり「娘に何をしたんですか!?」と担任に詰め寄っていた。慌てて「友人から借りていたノートを病院に置いてきてしまい、放課後だと間に合わないから自習中に取りに行こうと思った」と無茶苦茶な説明をし、担任からクラスメイトに聞いたところ、なぜか瀬野さんが手を挙げて話を合わせてくれた。説明もしていないのに、どうして合わせてくれたのかと彼女に聞けば、「明穂のことを聞いてきたから、心配してくれたんだと思って」と笑っていた。
 それからは何事もなく、文化祭の準備に取り掛かった。全員で教室の壁に模造紙を張り終えてざっとクラスメイトが見回したとき、誰かがぼそっと呟いた。

「袴田がいたら、何か違うことしてたのかな」

 高校三年生、最後の文化祭――そんな集大成に部活や委員会の仕事を理由に、クラスの催し物を簡易的にした。クラスの中で「怖いけどいい奴」と慕われ、人気もあった彼がこの場で仕切っていたら、少しは変わっていたかもしれない。今更悔やんだところで何も変わらないのだから、当日は各々楽しむことを全員で共有し、準備に向かった。
 それを袴田くんが見ていたことなど、誰一人気付いていない。
 クラスメイト全員の中に、ちゃんと袴田くんが存在していることを確認できたときは、瀬野さんに口元が緩んでいると指摘されてしまった。柄にもなく浮かれていたらしい。