「いやぁ、君の先輩でもあるんだよ。ここの卒業生。よろしくね、船瀬淳太クン」

 近江先輩が満面の笑みを浮かべるその裏で、ぼんやりと黒いオーラが見えたような気がした。まだ名乗るどころか、誰も紹介していないにも関わらず、船瀬くんのフルネームを知っているのには正直ぞっとした。顔を真っ青にした岸谷くんは、震えながらも先輩を見て伺う。

「せ、んぱい……なんでここに……?」
「よぉ、隼人。久しぶりだな。メッセージを貰って以来だな」
「そ、そうっすね、あの時は!」
「すっげぇ焦っていたから何事かと思ったけど……ふざけたことを聞いてくるし、詳しい説明もされず放置されて、ようやく連絡があったと思えばバスジャック事件に遭遇? 随分自由に遊んでるなオイ。報告くらいすぐ寄越せよな」
「いや、えー……い、いろいろ忙しかったんで! って、そんなことより! なんで文化祭にいるんですか?」
「可愛い後輩の晴れ舞台を観に来たに決まってんだろ。特にお前らの代は、まともに文化祭に参加してなかったから気になってさ」

 近江先輩が眉を下げて、申し訳なさそうに言う。
 例年文化祭の期間には、校舎裏に南雲の不良達が大勢乗り込んでくるという、傍迷惑なイベントがあったらしい。北峰の不良も反発して乗せられてしまうから、文化祭を楽しむ暇を与えられることもなく、半強制的に喧嘩に参加させられたと聞いたことがある。
 しかし、夏祭りの一件で南雲との関わりががらりと変わったため、今年は存分に楽しめると、岸谷くんだけでなく他の不良たちも嬉しそうにしていた。
 バスジャック事件との関わりについては、岸谷くんは完全に被害者だということを、後で私から伝えておこう。