年に一度行われる大イベント、北峰高校の文化祭が始まった。
 夏休みからずっと準備してきたこともあって、楽しんでどんどんと売上を稼いでいるクラスもあれば、数時間に行われる演劇発表会に出場するために緊張で固まった笑顔のまま売り子をしている生徒もいる。
 そんな中、中庭では有志の文化部によるストリートライブが始まっていた。
 後夜祭でライブ予定である軽音楽部は、日中はソロやギター演奏をメインで披露するらしい。運が良ければ、ダンス同好会とのコラボが見られるという。文化祭中でも先生の手伝いから解放された私が中庭に着いた頃には、すでに多くの見物客で賑わっていた。

「楓ー! こっちこっち!」

 人混みをかき分けながら呼ばれた方へ向かうと、佐野さんと船瀬くんが手を挙げて一人分の空間を空けてくれていた。最前列の特等席だ。

「ごめんね、ありがとう」
「大丈夫ですよ! 井浦先輩、間に合ってよかったです」
「こういうのは前で楽しまなくちゃね! ほら、始まるよ」

 ギターのかき鳴らした音が中庭に響き渡ると、わあっと歓声が大きくなった。観客がずっと待ちわびていたのがよく伝わってくる。ギターを構える男子生徒の隣で、マイクを持った美玖ちゃんがニッコリと笑う。

「――おまたせしました、歌いますっ!」

 美玖ちゃんの一言で始まると、待ってましたと言わんばかりに大いに盛り上がった。最近流行りの曲からついうっとりと聴き入ってしまうバラードまで、なんでも歌いこなす彼女に全員が魅了される。ペンライトまで準備していた佐野さんも人一倍声を上げて楽しそうだ。

「これはもう……ミスコンでのアピール効果ですね! 後夜祭もきっと盛り上がりますよ!」
「ああ……それでこんなに人が多いんだね……」

 興奮気味に言う船瀬くんの言葉をすんなりと納得した。
 ミスコンの出場者のアピールは昨日の前夜祭で行われた。今は校内に入ってすぐの一角にコーナーが設置され、アピールタイムの動画が流しっぱなしにされている。中庭に集まっているほとんどの人が動画を見て来てくれたようだ。