「ひ、ヒーロー?」
「ぼくはこわくてずっと泣いてたのに、おにいちゃんとおねえちゃんだけが悪いやつらと戦ってくれて、おかあさんを守ってくれたんだ! だからヒーローなんだぞ!」
「うちの子がすみません! でも本当なんです。彼らがいなかったらどうなっていたことか……」
「信じてください、彼らが何をしたかは知らないけど、助けてくれたのは本当なんだ!」

 男の子が不器用にファイティングポーズを取りながら、懸命に教えてくれる。それに寄り添うように母親と、彼女を支えてやってきたサラリーマンが口添えをしてくれた。

「わ、我々だって決めつけているわけじゃないんですよ。不良の喧嘩である可能性も……」
「じゃあどうしておじさんは来てくれなかったの? ぼく、ずっとけいさつのおじさんにはやくきてってお願いしてたのに! おじさんは悪いやつから守ってくれる正義のヒーローじゃないの?」
「うっ……」

 子供にここまで言われると、さすがの警察官も苦い笑みを浮かべるしかなかった。さすがに全てに答えられるわけではないことはわかっているつもりだ。それでも純真に助けを求めていた男の言い分に、嘘をつくことしかできない警察官にはむしろ同情してしまいそうになる。

「彼らが正当防衛だったことを、証明できればいいんですよね?」

 困り果てた警察官に、バスの運転手が歩み寄る。

「バスの車内に取り付けたドライブレコーダーがあります。これなら文句ないでしょう」
「レコーダー……そっか!」

 自分で動画の撮影をしておけばよかったと悔やんでいたけど、その手があったか。
 これなら証明できるかもしれない!

「無理だ……」

 安堵した矢先、袴田くんがぼそっと呟いた。隣にいなかったら気付けないほど小さな声だった。苦虫を潰したような顔で小声で私に言う。

「俺がちゃんと映っているか、わからない」
「でも実体化してるし……」
「俺はもう死んでいるんだぞ。警察が調べればすぐにバレる。むしろ心霊現象として証拠にならねぇ可能性もある」
「ど、どうにかならないの?」
「できたらとっくにやってるって」

 悔しそうに唇を噛む。体力を消耗している今、実体化を維持するのも精一杯なのかもしれない。すると、誰かが袴田くんと岸谷くんの肩をがしっと、覆いかぶさるようにして掴んだ。