雄叫びが聞こえたとともに、ガシャン! とその場に叩きつけられる。顔を上げるとそこには、学校にいるはずの岸谷くんが、汗だくで目の前に立っていた。

「きっ……き、北峰の岸谷!?」
「危ねぇだろうが! 暴発したらどうすんだ!」
「……岸谷くん、なんで」
「はぁ? 授業中に無言電話をかけてきた奴はどこのどいつだ!」

 心配したんだからな! と岸谷くんがすごい剣幕で迫ってくる。
 そういえば、バスの座席に自分のスマホを埋め込んでいたことをすっかり忘れていた。

「どうしてここが分かったの?」
「俺の情報網を舐めるな。……つか、随分懐かしい顔がいるじゃねぇか」

 岸谷くんはそう言って、腹部を蹴り飛ばされた袴田くんを、ニヤニヤと笑みを浮かべて言う。

「あー……岸谷? ようやく来たか」
「遅いってんならてめぇの方だからな、袴田。なんだその姿は。腕がなまってんじゃねぇの?」

 鼻で笑いながら岸谷くんが手を伸ばす。袴田くんはそれをしっかり掴むと、二人して田中くん達を見据えた。

「話は聞いた。その兎野郎は、立てこもり犯が逮捕前に犯した事件の被害者の身内だな。別件で警察に何度か補導もされているから、ここで俺達を口封じしてもすぐにバレるぞ。拳銃のおもちゃとはいえ、脅すだけでも立派な犯罪だ。さっさと降参しろ」
「おもちゃ……おもちゃ!? あれが?」
「くははっ、やっぱりな。中身はBB弾ってところだろ。脅すには充分だ。……ああ、井浦は寝てたんだっけ」
「おまっ……なんでこの状況で寝ていられるんだよ……?」
「いやぁ……あれ?」

 淡々といつものように話しているけど、この状況ではありえないことが起きている。だって岸谷くんは学校で会った時はすでに袴田くんの存在を忘れていたはずだ。困惑している私に、岸谷くんが気付いた。

「俺がどうやって思い出したかは後でじっくり話してやる。とりあえず袴田、あと数分で警察が到着する。どうする?」
「どうするも何も、今回ばかりは正当防衛を主張するしかねぇだろ」

 袴田くんの目つきが変わる。ピリッとした殺気が一瞬にして空気を変えた。