「とぼけるな。中学の時、そいつと入れ替わりで入ってきたお前が、俺を殴ったあの一発を俺は今でも覚えてる。暴走して荒れてたお前にはわかんねぇだろうな!」
「殴られてもおかしくねぇことしてたのお前だろ。大体、大人しいからって理由で井浦を狙ったのが間違ってたな。コイツ、お前が思っている以上に頭が固いから」
陰口ならせめて本人がいないところでして!
「……正直、お前がこんなことをする奴だとは思ってなかった」
少し躊躇いがちに、袴田くんは続けた。
「重症を負った幼なじみの為に犯人を探し出して、バスジャックなんて馬鹿げたことしでかすお前を、俺は可哀想な奴だと思った」
「……ふざけんな、お前に俺の何が分かるんだよ!」
「知るかよ。でもよ、偶然バスに乗り合わせたとはいえ、お前を止めようとしている井浦が、あの時本当に逃げたと思ってるのか?」
「は……?」
「井浦は自分が屋上から突き落とされそうになっても、不良に絡まれた後輩のために囮になっても、誰かの代わりに傷つくことになっても前に出るんだよ。それが正しいと思ったからだ」
「何言ってんだ? 置物は置物だろ、俺に恐れて逃げた卑怯者だ!」
「お前を恐れた? 恨みを持ってる同級生を巻き込んで、誰かのために復讐することがかっこいい? そんなのクソくらえだ」
「なっ……」
「お前は羨ましかったんだよ。正しいと思ったことを行動で示す井浦に嫉妬してたんだ」
それは今まで聞いたことのない優しい声だった。人を上からモノ申す口調ではなく、投げかけるように――それこそ、哀れみという同情を込めた皮肉にも聞こえた。
田中くんがどう受け取ったかは分からないが、少なくとも彼は困惑した表情を浮かべていた。言われたことがわからない。信じられないと、わなわなと震えた。
「俺が……嫉妬? そいつを? なんで?」
「言われた方はわかんねーよな。自覚なんてないし。……でも、吉川は気付いてた。だからあんな行動したんだろうな」
「殴られてもおかしくねぇことしてたのお前だろ。大体、大人しいからって理由で井浦を狙ったのが間違ってたな。コイツ、お前が思っている以上に頭が固いから」
陰口ならせめて本人がいないところでして!
「……正直、お前がこんなことをする奴だとは思ってなかった」
少し躊躇いがちに、袴田くんは続けた。
「重症を負った幼なじみの為に犯人を探し出して、バスジャックなんて馬鹿げたことしでかすお前を、俺は可哀想な奴だと思った」
「……ふざけんな、お前に俺の何が分かるんだよ!」
「知るかよ。でもよ、偶然バスに乗り合わせたとはいえ、お前を止めようとしている井浦が、あの時本当に逃げたと思ってるのか?」
「は……?」
「井浦は自分が屋上から突き落とされそうになっても、不良に絡まれた後輩のために囮になっても、誰かの代わりに傷つくことになっても前に出るんだよ。それが正しいと思ったからだ」
「何言ってんだ? 置物は置物だろ、俺に恐れて逃げた卑怯者だ!」
「お前を恐れた? 恨みを持ってる同級生を巻き込んで、誰かのために復讐することがかっこいい? そんなのクソくらえだ」
「なっ……」
「お前は羨ましかったんだよ。正しいと思ったことを行動で示す井浦に嫉妬してたんだ」
それは今まで聞いたことのない優しい声だった。人を上からモノ申す口調ではなく、投げかけるように――それこそ、哀れみという同情を込めた皮肉にも聞こえた。
田中くんがどう受け取ったかは分からないが、少なくとも彼は困惑した表情を浮かべていた。言われたことがわからない。信じられないと、わなわなと震えた。
「俺が……嫉妬? そいつを? なんで?」
「言われた方はわかんねーよな。自覚なんてないし。……でも、吉川は気付いてた。だからあんな行動したんだろうな」